特集

早期治療でがん9割治る
「教育」の遅れで死亡者増

 乳がんでも仕事と両立

 セミナーでは、がんを告知され治療を受けている「サバイバー」が率直に体験を明かした。

 インターネットのポータルサイト運営企業に勤務する川崎市在住の石山美行さんは、16年に乳がんが見つかり、左の乳房を全て摘出。その後、リンパ節に転移し、現在はホルモン療法を続けている。石山さんは「がんの告知を受けると、仕事との両立は無理だと離職する人も多いと聞く。でも、私はほとんど休まず、仕事と治療の両立ができた。それは周囲が配慮してくれたからだ」と話した。

始業前に行われた伊藤忠商事本社のがん啓発セミナー(東京都港区)

始業前に行われた伊藤忠商事本社のがん啓発セミナー(東京都港区)

 やはり川崎市在住で人材派遣の企業に勤める風間沙織さんも、14年に乳がんで左の乳房を摘出した。会社のさまざまな制度を活用し、仕事と治療を両立させている。風間さんは「大抵の人は、自分だけはがんにならないと思い込んでいるのではないだろうか。それは違う。がんは突然なる病気だ」と訴えた上で、「私の場合は独身だったので、仕事を辞めるわけにはいかなかった。仕事を続けて生活していかなければならなかったから」と続けた。

 ◇がんで休職、悪いことじゃない

 千葉県柏市在住で医療関連サービスの企業に勤務する花木裕介さんは、17年12月に中咽頭がんと告知され、抗がん剤と放射線による治療を受けた。18年9月に復職したばかり。治療のため休職する前にフルタイムで働く社員200人に「がんのため休職します」と伝えた。がん確定診断の3日後からブログで体験記をつづり、現在も執筆中だ。花木さんは「がんで休職するのは、別に悪いことをしているわけではない。がんは治せる病気なのだ」と力を込めた。

 ◇絶望させない、辞めさせない

 予防や早期発見の取り組みだけでなく、発病したがん患者に対して「働ける間は、より働きやすい職場で」と、積極的な支援策に取り組む企業も増え始めてきた。

 「当然だが、社員ががんにならないことが一番良い。しかし、がんはいわば誰でもなる病気。がんになってもその社員を絶望させないし、辞職させない。そのためには会社の皆で支えていくことだ」

 「がんと仕事の両立支援」を会社の施策としている伊藤忠商事の西川大輔企画統括室長は、こう説明する。社としての取り組みとして、(1)がんになったときに安心して職場で相談でき、情報を共有できる環境を整える(2)がんの予防や早期発見への啓発や発病後に治療を続けられるようサポートする体制を強化する(3)発病した社員が治療を受けながら会社で働き続けることを可能にする社内体制や制度の整備を進める―の3点を挙げる。

 具体的には、社員を対象にしたがん啓発のセミナー開催や発病時の支援として仕事と治療の両立について相談できる窓口の設置、ガイドブックの作成などに取り組んでいる。(時事通信社・鈴木豊)

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