足の悩み、一挙解決

第7回 「強剛母趾」を知っていますか
~親指付け根の痛み、痛風とは限りません~ 足のクリニック表参道院長 桑原靖


 ◇重症なら手術で関節のずれを治す

強剛母趾に対する関節形成術の手術前。足が硬く、思うように曲がらない。

強剛母趾に対する関節形成術の手術前。足が硬く、思うように曲がらない。

 重症化した場合は、歩行機能の改善を目的とした手術を行います。手術にはいろいろな方法があり、例えば、親指を動かすと痛いので、動かないようにネジで固定してしまう方法もあります。

 この手術の際は、指の付け根で踏み返しができるように、少しつま先を上げた状態で固定します。しかし、指が浮いた状態になって、後々に巻き爪になる可能性もあるため、私のクリニックでは行っていません。 

 当クリニックでは、硬くなってくさびのように動きを妨げている組織を摘出した上で、ずれた関節の向きを本来あるべき場所に戻して、生体吸収性のネジ(ポリ-L-乳酸/ハイドロキシアパタイト性)で固定する手術術式を行っています。1ミリの違いで踏み返しポイントが変わり、術後の機能も変わってくるので、細心の注意を払います。

関節形成術の手術後。柔らかく動くようになっている。

関節形成術の手術後。柔らかく動くようになっている。

 関節のわずかな軸のずれを治せば、痛みを感じることなく足を踏み返してスムーズに歩けるようになるので、手術を受けた患者さんから大変喜ばれます。


 ◇放置するとトラブルに

 制限母趾の状態を放置すると、重症化して強剛母趾となるだけでなく、痛みをかばって他の部位に負荷をかけながら歩いてしまうため、別の病気を連鎖的に起こす可能性が高くなります。

 歩くときはまず、かかとで着いて地面をとらえた後、アーチが少し落ちてたわむことで衝撃を吸収し、そのまま足首が前に倒れます。さらに、足の指の付け根に体重をかけながら踏み返して、ポンと地面を蹴る。これが一連の動作です。

 強剛母趾の人は親指が曲がらないので、その代わりに思い切り足首を前傾させてアキレス腱(けん)を痛めてみたり、無理な力がかかとを伝わって足底腱膜を痛めつけたりします。このため、足底腱膜炎にもなりやすく、炎症が長期にわたって続くと、かかとの骨にとげ「骨棘(こっきょく)」ができるなど、さまざまな悪影響が及びます。

 ◇根本原因への介入が必要

 制限母趾のため親指で地面を踏み返せないと、人は無意識のうちにさまざまな歩き方を獲得しようとします。指を曲げずに何とかして歩こうと、がに股歩きをする人もいれば、内股歩きをして、他の指の付け根を痛めてしまう人もいます。

 親指の骨や関節は、太く頑丈にできていますが、他の骨はそれのおよそ半分、かかる力は4倍です。しっかり親指で地面を蹴れなければ、簡単に痛めてしまうのです。

 ただ、その前段階としては親指の内側にタコができたり、爪が巻いたりしていることが多いので、早めの段階で靴の見直しや、インソールの活用などを行うとよいかもしれません。

 足の不調を放置すると、連鎖的にトラブルが広がって、悪循環に陥ってしまいます。タコができたから削る、巻き爪が痛いからワイヤーで爪を固定するなどの対症療法を続けても、原因が制限母趾、あるいは強剛母趾であれば、その治療をしない限り、症状は改善されません。

 トラブルの根本的な原因は何かを突き止め、原因に合った治療を受けることが大切です。

(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)


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