足の悩み、一挙解決
子どもの足の健康に気を配ろう(足のクリニック表参道 理学療法士 菱沼遼さん) 【PART2】第19回
【桑原靖院長】新型コロナウイルス感染症の流行による自粛生活で、子どもの足の健康への影響が心配されています。本来は高齢者の問題であるロコモティブシンドローム(運動器症候群)が、子どもの間でも問題になっており、子どもの足の発達に悪影響を及ぼす可能性が指摘されているのです。年齢とともに衰えていく運動能力が、子ども時代にきちんと発達できなかった場合、非常にレベルの低い状態から、さらに低下していくことになり、高齢になった時に寝たきりになるリスクも高まります。そこで、今回は子どもの足の発達について、足のクリニックの理学療法士・菱沼遼さんにアドバイスしてもらいます。
◇子どもがロコモティブシンドロームに
【菱沼遼さん】ロコモティブシンドロームとは、加齢によって筋力が衰えて、転倒、骨折、寝たきりへと進んでいく可能性の高い状態をさします。それが、子どもの間で起きていることが明らかになってきました。
2010〜13年に埼玉県が幼稚園児、小学生、中学生約1300人を対象に行った調査で、バランスや筋力が弱くなっている子どもが約4割に上ることが分かりました。このため、転んだだけで骨折してしまう子どもも増えてきています。
子どもに片足立ちをさせることで、体のバランスを取る能力が分かる【時事通信社】
子どものロコモが指摘され始めた頃、ちょうどスマートフォンが普及し、外で遊ぶ機会が減ってきたことが指摘されています。さらにコロナによる外出自粛で、学校でも体育の授業ができなくなるなど、子どもが体を動かす最低限の時間さえ、なくなってきてしまいました。
子どもの足の発達への影響が心配されています。
◇四つのチェックポイント
あまり外で遊ばないし、もしかしてうちの子も…と気になる人は、次の4項目をチェックしてみましょう。
(1)片脚立ち 片脚で立たせてみて、5秒以上立てずにふらつく場合、バランスを取る能力が低下しており、転倒しやすい状態と言えるでしょう。転倒して骨折するのは、高齢者に限ったことではありません。ちょっとしたつまずきで骨折してしまう子どもも少なくありません。
(2)しゃがむ しゃがみ込む動作をさせてみてください。途中で止まってしまう、かかとが上がってしまう、後ろに転んでしまう、ということはありませんか?
洋式トイレの普及で、和式のトイレでしゃがめない子どもも多いといわれます。ふくらはぎの筋肉やアキレスけんが硬くなってしまっている可能性が大です。
(3)手を上げる 両腕を上げた時、垂直に上がらない場合は肩関節の可動域不足です。スマホやゲーム機を長時間使うことで、首や肩が凝ってしまっている子どもが増えています。
(4)体前屈 立った状態で体を前に倒し、指先が床に着かない場合、柔軟性が足りません。
子どもの足の成長の様子。側面からの写真に記した2本の点線が交差する角度で、足裏のアーチが年齢とともに形成されていく様子が分かる(「足のクリニック表参道」提供)
◇運動が発達を促す
子どもの足の成長過程をレントゲンで見てみましょう。
3歳の子どもは、骨が未熟で関節と関節の間がかなり空いています。7歳になると、骨が成長してきて、成長期に特有の骨端線ができてきます。15歳くらいになると、骨格が完成してきて、しっかりした骨が形成されているのが分かります。
足を横から撮影したレントゲン写真を見ると、3歳ではかかとが地面に落ちていて、足裏のアーチは形成されておらず、扁平(へんぺい)足の状態であることが分かります。7歳になると、足裏のアーチが少しずつできてきて、15歳になると、しっかりとしたかかとの形ができてきます。
幼児期はほとんどの子どもが扁平(へんぺい)足ですが、歩いたり、運動で繰り返し足に体重の負荷をかけたりすることで、徐々に骨や筋肉が発達して、足底のアーチが形成されていきます。
足底圧測定装置で撮影した正常歩行の様子(「足のクリニック表参道」提供)
足底圧測定装置で撮影した扁平足の歩行の様子(「足のクリニック表参道」提供)
◇運動する、しないで大きな差
学校の部活や課外活動で積極的にスポーツをする子どもがいる一方で、日常的に運動習慣を持たない子もいて、この差がとても大きいのが最近の傾向です。
日ごろから運動している子どもは、順調に足が発達しています。歩き方もかかとから着地し、地面を蹴っていて、とてもスムーズです。しかし、学校から帰宅後はほとんど家から出ずに、スマホでゲームをしたり、勉強したりという生活を送っている場合、足底のアーチが作られず、扁平足のままになっている子どもが多く見られます。そうした子どもは転びやすく、歩く時も歩幅が狭く、足裏全体を地面に着けるため、ペタペタと音が出ます。
足底圧測定装置を使ってみると、足裏のどこに体重がかかっているのかが客観的に分かります。
◇1日30分以上の運動を
足底のアーチを形成する筋力を養うためには、1日30分以上の運動が必要です。運動の不足している子の親御さんには、トレーニングというより、遊びを通した運動の機会を持てるようアドバイスしています。
運動なら、何でも構いません。ボール投げをするだけでも、立った状態で足に体重をかけることができるので、効果的です。
運動習慣のない子どもに、その習慣を付けるためには、家族の協力が不可欠です。子どもが将来の自分の健康を気にして、自発的に運動を始めるということは期待できませんから、親が習慣付けてあげることが必要です。1日の中で運動する時間を決めて、声を掛けたり、一緒に外に出掛けたりして体を動かす機会を作るようにしてください。
また、扁平足の状態で運動すると、膝などに負担がかかりやすいので、インソールを使って、足底のアーチを作った状態にしておくことも大切です。
成長期に筋肉が発達しないと、足底のアーチが形成されないだけでなく、心肺機能の発達も不十分になり、大人になってからも疲れやすくなってしまいます。最初は親のサポートが必要でも、運動の楽しさが分かると、自分から運動するようになっていくと思います。中高年になってから、慌てて運動を始める人が多いのですが、ぜひ子どものうちから、運動習慣を持って、身体を動かす心地良さを体験してほしいと思います。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
菱沼遼さん
▽菱沼 遼(ひしぬま りょう)
理学療法士 足のクリニック表参道 リハビリテーション科責任者
2013年理学療法士免許取得 春日部中央総合病院 リハビリテーション科所属
2021年から現職
全国から患者が殺到するクリニック
「足のクリニック表参道」院長。2004年埼玉医科大学医学部卒業。同大学病院形成外科で外来医長、フットケアの担当医として勤務。13年東京・表参道に日本では数少ない足専門クリニックを開業。専門医、専門メディカルスタッフによるチームで、足の総合的な治療とケアを行う。
日本下肢救済・足病学会評議員。著書に「元気足の作り方 ― 美と健康のためのセルフケア」(NHK出版)、「外反母趾もラクになる!『足アーチ』のつくり方」(セブン&アイ出版)など。
(2021/06/09 05:00)
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