治療・予防

誤嚥や窒息の原因になるそしゃく障害
かむことを頑張らない

 加齢により、食べ物をかむ力が衰える人が増えている。そしゃくの機能が低下することをそしゃく障害というが、食べる楽しみが半減するだけでなく、栄養不足にも陥りかねない。その背景と対応策について、日本歯科大学口腔(こうくう)リハビリテーション多摩クリニック(東京都小金井市)の菊谷武院長に聞いた。

食べやすくする調理方法の工夫

食べやすくする調理方法の工夫

 ▽歯に問題、口腔機能が低下

 そしゃく障害の原因は、歯の喪失や義歯の不適合、虫歯による歯の痛みだけでなく、舌や頬、唇の運動機能の低下が挙げられる。菊谷院長は「口の周りの器官の運動機能の低下は、加齢に加えて、脳卒中の後遺症、パーキンソン病認知症などの病気が進行することで起こります」と説明する。

 歯や義歯に問題がある場合は、入れ歯を作ったり、義歯を調整し直したりすることで改善する。だが、舌や口の動きに関係する運動機能の低下が原因となるケースでは、改善が見込めない例も多いという。「舌や唇、頬を動かす口腔機能の訓練を受けて、現状を維持することが重要です」と菊谷院長。

 ▽食形態の選択を

 治療や口腔機能の訓練と並行して重要なのが、食事の内容を見直すこと。かみにくい状態で無理に硬いものなどを食べようとすると、食事時間が長くなり、食べづらさから食事量が減って低栄養状態を引き起こす。さらには、飲み込んだ食べ物が誤って気道に入り、肺炎を起こす誤嚥(ごえん)性肺炎にもなりやすい。最悪の場合、窒息して救急搬送されることもある。

 容易にかめる、歯茎でつぶせる程度の軟らかさに煮るといった調理方法の工夫も大切だ。ただ、そしゃく機能が低下すると、小さく刻んだパラパラしたものがかみにくくなり、かむときに義歯が少し沈むため、薄く切り過ぎるのは避けた方がよい。また、軟らかい食事に抵抗感のある人もいるが、菊谷院長は「かむことを頑張るのではなく、自分に合った食形態を選択し、十分に栄養を取ることを最優先に考えましょう」と強調する。

 歯科医院では、そしゃく障害の原因を探り、治療で改善が可能かを評価した上で、訓練方法や個々の患者に適した食形態の指導を行っている。

 菊谷院長は「友人や家族との食事の際に、口腔機能の低下に気付く人も少なくありません。食べること、かむことに不安を感じたら、かかりつけの歯科医に相談してください」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)


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