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風疹が増加傾向にある。2013年には多くの患者を出し、社会的な問題になった。その後、流行は治まったものの、19年は昨年の同時期を上回るペースで推移しており、国立感染症研究所感染症疫学センターは緊急情報を出し、警戒を呼び掛けている。
風疹は「三日ばしか」などと呼ばれ、かつては水痘やおたふくかぜと並んで子どもが一度は感染する病気とされていたが 、今や流行の中心は成人男性となっている。注意したいのは、妊婦から胎児に感染すると重度の難聴や視力障害、循環器疾患などの先天性風疹症候群(CRS)を一定の確率で引き起こす恐れがあることだ。
◇19年、昨年同時期上回る
13年の流行後、患者数は減少傾向にあったが、18年に2917人、19年は5月9日までに1434人の感染者が報告されている。患者数は前回急増した13年の同時期の報告数や増加率に及ばないものの、13年以来の患者数となった18年の同じ時期を大きく上回っている。同センターは4月に引き続き5月にも流行に関する緊急情報を出した。
2018年以降、感染者数の増加が見られる風疹=「風疹流行に関する緊急情報」より
厚生労働省もワクチン行政の変遷の中で接種率が低くなっていた30代から50代の男性間での流行を防ぐため、19年度から3年間、1962~79年生まれの男性に事前検査をした上で、法律に基づく風疹ワクチンの定期接種を行う取り組みを開始した。
風疹ワクチンの接種率が低い30~50代の男性への対策が重要なことは、同センターの緊急情報からも読み取ることができる。この情報は、「報告された患者の94%が成人で、男性が女性の3.9倍多い。年齢別でも男性は30~40代が60%を占めている。一方、女性では20~30代が63%を占めている」と分析。妊婦やその夫の世代のリスクが高いことがうかがえる。
一方、感染経路を分析する「推定感染源」の77%が不明で、感染経路の追跡は難しい。それでも、報告されたケースを見れば、男性の場合は職場で感染した事例が一番多く、感染拡大を防ぐためには就労世代男性への対策の重要なことが分かる。
国立病院機構横浜医療センターの奥田美加産婦人科部長
◇男性の接種拡大が課題
風疹とCRSの問題に取り組んできた国立病院機構横浜医療センター産婦人科の奥田美加部長は「長年、日本産婦人科医会などが対策の重要性を訴えてきた結果、前回流行した13年時点に比べれば、風疹やCRSへの社会の関心は高まった。『他人に感染させてはいけない病気』『妊婦をCRSから守ろう』と意識する人は増えているが、多くの男性は『自分は関係ない』と思っているだろう」と話す。
その一方で長期的な課題として、定期接種とされた男性の予防接種がどこまで広げられるかだ、と奥田部長は指摘する。多くの世代で抗体保有率が95%を超え、免疫を獲得している女性に対して、「男性は1979~89年生まれで90%前後、その上の62~78年の世代が80%前後にとどまる。これより下の世代は乳幼児段階での予防接種が徹底されているが、この二つの世代の抗体保有率を引き上げられないと長期的な流行対策にはならない」と強調する。
緊急情報に目を通す奥田美加部長
◇職場での取り組みを
厚労省による定期接種化について奥田部長は一定の評価をした上で、「対象者は自主的に平日に医療機関へ足を運び、検査と接種を受ける必要がある。仕事などに忙しいこの世代の男性にこのような行動をさせるには、かなりの動機付けが必要だろう」と言う。
この背景には、成人男性が風疹に感染する確率が低く、命にかかわらないために接種を受ける自身のメリットが感じられないことが挙げられる。社会全体のために、流行をなくし、CRSにつながる妊婦への感染を防ぐ、という動機付けが必要になるからだ。
具体的には多くの人が就労している世代なので、勤務時間中に医療機関に行くことを積極的に雇用者が推奨する、職場ごとにインフルエンザのように接種を呼び掛けるなどの取り組みが考えられる。奥田部長は「費用を負担したり、接種可能な医療機関を紹介したりするだけでは、接種率の一層の引き上げは難しい。接種歴と抗体保有状況を徹底的にリストアップして、抗体を持たない人をゼロにするよう企業が本気で取り組まないと、あまり効果は挙げられないだろう。企業や学校など集団に属する場合は予防接種歴の証明が必須、とすべきだ」と指摘する。(喜多壮太郎・鈴木豊)
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