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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染時に問題になっているのが、持病のある人が重症化しやすいことだ。中でも、免疫の低下により重症化しやすい糖尿病は、感染による血糖の上昇や心筋梗塞など血栓形成による血管疾患の誘発の危険も高まるなど、健康リスクが大きくなることが分かってきた。専門医は「発症後の症状の進行も極めて早く、患者はもちろん、治療に携わる側も一層の注意が必要」と警告する。
◇感染した2割死亡という報告例
坂本昌也・国際医療福祉大学教授
「統計を見れば、糖尿病患者が新型コロナに感染しやすいとまではいえない。しかし、一度感染・発症すれば、間違いなく重症化のリスクは高くなる。今年2月に発表されたフランスの研究では、コロナ感染症で入院した糖尿病患者の2割が、4週間以内に死亡したという報告もある」。新型コロナの中等症までの糖尿病患者の診療に携わってきた国際医療福祉大学の坂本昌也教授(糖尿・代謝・内分泌内科)は、こう振り返る。
糖尿病の患者は合併症の一つとして免疫が低下し、さまざまな感染症の発症・重症化する危険性が健康な人より高くなることは既に知られている。しかし、坂本教授は「免疫低下以外にも、重症化のトリガーになる要素がある。糖尿病治療の専門医も新型コロナの診療に加わる必要があるのはこのためです」と念を押す。
指摘される問題の一つは、発熱などを引き起こす体内の炎症が、血糖上昇を引き起こして糖尿病自体の病状を進行させてしまうこと。そして、新型コロナの発症に伴い血管中の血液の一部が凝固し、その血栓が引き起こすさまざまな病変が加わることも大きな問題だ、と坂本教授は指摘する。
◇ステロイド剤投与の効果とリスク
高血糖自体は体内のさまざまな臓器に悪影響を与えることが知られているが、問題はこれだけではない。新型コロナの症状が進行して炎症が広がり、体内の免疫が過剰反応して起きる「サイトカインストーム」。この対処でも「難しい問題を引き起こす」と坂本教授は言う。
患者を診察する坂本教授
「サイトカインストームを抑えるには、抗炎症効果の高いステロイド剤が有効であることが分かってきたが、この薬は血糖値を上げてしまう作用もある。ただでさえ血糖が高い状態で、ステロイドの投与は、炎症抑制の効果と血糖上昇のリスクの両面で評価する必要が出てくる」と坂本教授は、臨床現場で板挟みになった体験を話す。
血糖管理に一層注意しながら、ステロイドをより慎重に投与していくことで治療効果を上げてきた。「感染症・呼吸器内科の専門医と、糖尿病の専門医の密接な連携が必要。血糖管理などに練達した看護師も必要なため、感染制御など感染症治療の観点からは、医療側にも多くのリスクが生じていた」と坂本教授は総括する。
◇回復後も注意怠らず
血栓の問題も同様だ。新型コロナの患者に血栓が生じやすいことは既に報告されており、発生頻度などは糖尿病患者で、特に高くなるとはされていない。
しかし、糖尿病患者の血管は、長年の高血糖状態で損傷を受けたり、弾力性を低下させたりしている。一度血栓ができてしまうと、血管梗塞などを引き起こすリスクを高めてしまう。
坂本教授は「糖尿病、特に生活習慣病の色彩の強い2型糖尿病の患者の多くは、高血圧や脂質異常症を合併しており、脳卒中や心筋梗塞など血管系の疾患を発症するリスクは高い。発熱などで脱水状態にある新型コロナ発症時には、これらのリスクが一層増してしまう」と問題の深刻さを指摘する。
これらの理由から、新型コロナが回復したとしても、糖尿病の病状や全身の臓器や血管の状態が悪化している危険は少なくない。坂本教授は「新型コロナ自体は中等症程度で収まっても、その後は合併症や持病の悪化に備えて長期のフォローアップが必要。糖尿病の主治医の定期的な診察や、必要に応じての循環器内科の受診などを心掛けてほしい」と訴えている。
糖尿病 血液中の糖分(血糖値)を制御するインスリンホルモンの不足や効力低下で起きる慢性疾患で、病態や進行度に応じて治療法はさまざま。進行すると腎不全による人工透析や網膜障害による失明、血流不全による下肢末端の壊死(えし)などの合併症を併発する危険が高まる。
(2021/03/19 05:00)
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