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本稿は、2021年夏に問題となった新型コロナウイルス患者の受け入れ医療機関の不足に対応するために、今後必要な新しい病院制度を提案するものです。(福祉未来研究所代表 磯部文雄)
日本の医療制度は、2000年にWHOから世界一と評価されました。それは、公平性、アクセス等が総合評価されての1位でした。病床数の多さは当時から言われていましたが、マイナスの評価には至っていませんでした。
しかし、私は今回の新型コロナへの医療対応においては、多過ぎる病床がマイナスに働いたと考えています。そこで、本稿ではその理由を述べ、将来の人口動向や医療及び介護保険の財政も考慮した、今後のあるべき病院制度を提案したいと考えます。抜本的な改革案であるため法律改正を要し、政治的な抵抗は大きいと考えられますが、日本国民の将来のために必要な改革を進めるには、今回が良い機会だと考えます。
なお、現行法により可能な対応等については、別に論じたいと考えています。また私には、1995年の阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件のときに、厚生省で救急災害医療や医療機関整備についての担当課長をしていた経験があり、本稿の土台になっています。
1 病院制度抜本改正を検討する理由
今回の新型コロナで分かった問題点として次の2点があります。
(1)一連の新型コロナ報道では、病院会の会長らが、新型コロナ患者を受け入れられない病院として、回復期病床と療養型病床を有する病院を挙げていました。「病気を治すのが病院」というのが一般感覚ですから、これら二つの病床はそうではないことを宣言したのだと理解しました。その後、回復期病床は重症期を脱した患者の受け皿になるとして少し修正されたのですが、現行の病院制度の問題点を突き付けられた思いでした。
眼科の単科病院が新型コロナ患者を受け入れられないのは分かりますが、それ以外の病院で感染症による肺炎患者を受け入れられないなら、それらは療養施設だと思います。すると、これらの施設に現在の病院基準で必要とされている医師・看護師の配置基準は、必要以上に多いことになると思います。それゆえに、回復期病床と療養病床だけの施設は今の職員配置基準を緩めて職員を減らして療養施設とし、余った医療職員を新型コロナ患者を受け入れられる病院に回すべきです。そして、臨時の医療施設を設置するときは、余力のある病院から医療職員を派遣することとします。
新型コロナ患者を直ちに受け入れられる病床が少ないことが問題視されましたが、もともと病床の空きをつくれる体制にする必要があると考えます。それには十分な医療職員と機械設備も含まれます。
また、動線を確保できないので新型コロナ患者を受け入れられないとの話がありましたが、であれば、面積要件も再検討し、十分な動線を確保できる広さを病院の施設要件とすべきでしょう。臨時の医療施設設置よりも、既存病床の転換で対応できればそれに越したことはありません。
さらに、感染症専門の医師がいないので新型コロナ患者を受け入れられないという話もありました。であれば、専門医(その認定が現在のように学会任せでいいのかという問題もありますが)の配置を義務付けるなど、病院の人的要件も根本的に改正する必要があるでしょう。
(2)新型コロナの問題を別としても、今後の人口減少、医療保険給付費・介護給付費の増大、介護職員の不足などを踏まえると、人・物・金を節約しなければ、現在の医療・介護水準は今後維持できないと覚悟しなければなりません。それを考えれば、今の病院制度の良いところを残しつつ、将来的にも維持可能な制度に変えていく必要があります。その観点からは、病院だけでなく介護施設も含めた再編・統合が大切です。
なお、高齢社会と言われ高齢者の入院が増えるように思われますが、入院患者数は減少傾向にあり、その理由は心臓病など循環器系の疾患の減少にあると考えられています。従って今後、平時の病床数は確実に過剰になることが予想されます。
(2021/11/08 05:00)
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