要件見直し、病院再編を
~新型コロナ受け入れ医療機関不足踏まえ~ 新しい病院制度の提案
4 移行方法
①新しい老健施設や特養のためには、現在の特養の良さをアピールし、「医療提供施設の方が世間体が良い」という
②急性期病床、回復期病床および慢性期病床からの移行には、保険医療機関の指定制度の活用がよいとみられます。すなわち、回復期施設を保険医療機関として指定することとします。保険医療機関の指定は、現在は国の権限で実際には地方医務局が担当していますが、権限を都道府県知事に委譲し、国には、費用負担の観点からベッド数の上限策定権限を与えるなどを検討すべきでしょう。
③加えて、医療費の地方負担をもっと増す方策を講じ、市町村または都道府県にとって回復期施設費は介護保険施設と同じか、より負担を大きくすることも必要です。特に精神病床および療養病床の数の地方格差はすさまじく、それを現在は保険制度を通じて全国民が共同負担しています。高齢者医療制度、介護保険制度および国民健康保険制度を通じて、精神病床や療養病床が全国一少ない神奈川県民の税金が数倍の病床を持つ県に流れていく仕組みになっています。少なくとも、精神病床と新たな回復期施設については費用分担割合を見直し、格差を早急に是正すべきです。例えば、国保に対する国庫補助の見直しを実施すべきでしょう。医療費の多い地方自治体の負担を増やして、その地方自治体に転換を促進させる必要があります。それにより、特養や老健施設の地方負担が、回復期施設と変わらないか減るようにし、以上述べた改革を財政面からも補完する必要があると考えます。
④慢性期病床の転換には、平均在所日数の倍の猶予期間を設け、その旨を明らかに法定し、広報するのが適当でしょう。介護療養病床廃止時のような情緒的介護難民論を退ける一方、当分の間といって延々と続けることも避けるべきでしょう。
⑤手続きの煩雑さが施設より入院を選ばせるとの意見もあります。介護保険認定の迅速化と回復期施設の入所計画の作成・市町村への届け出を新たに求める必要もあるでしょう。
5 保健所の在り方
東京都などの保健所業務の逼迫(ひっぱく)が言われています。私は、その原因を東京23区の保健所などの設置者である区長などの指揮権が十分及んでおらず、その結果、区内の他部署からの応援が十分でないのも一因だと推測しています。従来の保健所職員10人を100人にした所もあるようですが、感染症の非常時は他の業務を一時やめても200人、300人にして対応すべきでしょう。
背景には、増やせない原因が保健所長を医師にしている要件があり、医師を確保しにくいために保健所全体を特別扱いし、区としての一体的な行動が取りにくくなっている面があるからだと推測しています。保健所に医師は必置とすべきですが、保健所長を医師に限る政令を改めるべきでしょう。昨年来の報道の中でも、都の23区長が保健所について発言するのをほとんど聞かないのは不自然です。保健所設置者は23区長なのです。保健所長が自ら診療するといったことは例外であり、代わりに診療できる診療所は全国に10万以上あります。
都道府県知事も、町村や保健所設置市でない市には直轄保健所を設置しているわけですから、その設置者としての指揮権に基づく指示や職員の補充は都道府県知事が的確に行うべきで、これも医師要件の撤廃でやりやすくなると思われます。
6 その他の改正
法改正で与えられた都道府県知事の病床調整権をさらに進め、空いている病床には他の市町村からの新型コロナ患者受け入れを、厚生労働相が命じられるようにする法改正も必要と考えられます。ただし、8月中旬の東京都のように、まだ都内の重症病床が50%強の使用率だというのに他県に広域搬送するといったことは許されません。
人員動員に関する新型インフルエンザ特措法第31条も、要請・指示に加え、指示に従わない場合の公表、保険医指定の取り消しを可能にする法改正も必要と考えられます。感染症に係る医薬品・医療機器のうち備蓄の可能なものについて、備蓄法を定める必要もあるでしょう。
7 まとめ
以上をまとめると、新しい感染症などの対応に向け、病院に十分な職員、広さおよび機器を整備するため、
①現在機能報告されている高度急性期、急性期および一部の回復期の病院の中から、新たな人員、面積、機器の要件を満たすものだけを病院に分類する
②現在の回復期病床の一部、療養病床は回復期施設とし、医師は常勤1人で看護師の数も少なくする
③現在の老健施設、介護医療院は非常勤の医師を配置し、看護師の数も少なくする
④これにより余剰となった職員を新病院に回す──ことが重要と考えます。(了)
磯部 文雄(いそべ・ふみお)
1950年生まれ。1974年東京大学法学部卒業。同年、厚生省入省。老人保健制度準備室、保護課、指導課、医薬企画課、OECD代表部、内閣府、内閣官房などを歴任。 老健局長を最後に退職。こども未来財団も勤めた。主な著書は『社会保障これから』産経新聞に連載(2007-2008年)、『保健医療福祉行政論』ミネルヴァ書房(2017)=共著など。
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⑴田中耕太郎「ドイツの医療提供体制と新型コロナ対応」2020年
⑵OECD Health Statistics 2020によれば、慢性期病床は、フランス3万床、米国6万床に対し、日本は33万床。
⑶残業時間の上限は、法律上一般労働者の年間720時間に比し、研修医は1860時間と2.6倍で、過労死ラインの960時間の1.9倍。
⑷日本貿易振興機構「全米における主要病院等に関する調査」2017年3月
(時事通信社「厚生福祉」2021年10月12日号より転載)
(2021/11/08 05:00)
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