特集

要件見直し、病院再編を
~新型コロナ受け入れ医療機関不足踏まえ~ 新しい病院制度の提案


 2 病院の現状

 (1)法律上の病院の定義

 病院の定義は、医療法で「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの」とされ、必要な面積や人員配置が政令以下で決まっています。従来は開業医1人の診療所から病院への変更が可能なように決められてきた感が強く、新型コロナなどの疾病への対応を想定した基準にはなっていないと考えます。例えば、必要診療科の基準がありません。

 類似の定義は明治時代にわが国が取り入れたドイツにあり、10床以上を病院としていたようです。現在は慢性期病床は存在せず、またリハビリだけを行う施設は病院ではないとされています⑴。

 (2)病床の分類

 これまでの法令による病床区分は、一般病床、療養病床、感染症病床、結核病床および精神病床でしたが、現在国が進めている構想ではこれに代えて、一般病床と療養病床を機能により高度急性期、急性期、回復期、慢性期病床に分けようとしています。私は、これらに加えて相当数の医師や看護師を必要としているという意味で、介護保険施設(介護医療院、老人保健施設および介護老人福祉施設)も病院制度改革の検討対象とすべきだと考えます。合計7種類の施設を見ていきます。

 ①まず施設をこのように分ける問題点は、機能が重複している施設がある点です。急性期病床から在宅への中間施設としての回復期病床、慢性期病床および老人保健施設、療養をしながらの生活施設としての介護医療院および介護老人福祉施設(特養)です。

 この中で、老人保健施設は、病院から在宅への中間施設として出発しましたが、今や特養への待機も兼ねた生活施設としての機能も強めてきていると考えられます。

 ②慢性期病床では、熱が出れば検査する、苦しければ酸素投与する、痛いなら麻薬の調節をすると言われています(ある療養病院の案内)。しかし、新型コロナ患者は受け入れていないようです。また、これらが常時必要な患者ばかりが慢性期病床に入院しているのでしょうか。こういう症状は在宅療養者でも時々起こり、医師の訪問診療などで対応しているとみられます。偶発的に起こるこうした事態のために、相当数の医師や看護師が常時配置された施設をつくっておくことは、医療職員や費用の面で今後も維持可能とは思えません。

 日本で慢性期病床が急増したのは1970年代の美濃部都政での老人医療費無料化以降で、社会的入院が多くの療養病床を生んだと考えられます。意図は良かったが思わぬ副作用を生じた例であり、国はこの入院を是正する努力をしてきましたが、実は上がっていません。

 なぜ社会的入院が良くないかといえば、入院の必要がない者が病床を占拠しているために、まさに新型コロナのような疾病で医療が必要な人に入院医療を提供できないことがあります。過大な医療費、過大な医療職員、入院者自身の身体・精神機能の低下という問題もあります。

 ③介護医療院および特養は生活施設であり、熱が出たり、苦しくなったり、痛くなったりすることはあると思いますが、それは一定数の看護師や非常勤の医師により対応可能と考えられ、現に多くの特養ではそうした方法で行われています。

(表1) 7施設比較表

(表1) 7施設比較表

 (3)病床数の現状

 ①2018年度の国の医療施設調査によれば、病院の病床数は、概数で一般89万床、療養32万床、精神33万床、計155万床でした。

 ただし、この中には手術や重症患者に対する治療実績が全くない高度急性期・急性期の病床や非稼働(過去1年間に一度も患者を収容していない)の病床も含まれます。18年度の病床機能報告によれば、17年で前者は3万6000床、その一部である後者は約1万7000床とされています。

 また、病床数は分かっていても、そのうち急性期病院に併せて設置されている回復期病床と療養型病床の、いわゆるケアミックス病床の数は分かりません。これらの病床は急性期病院内に付設されており、医師も兼任が多いと考えられます。

 ②一方、18年度の各病院からの病床機能報告によれば、(表1)の通り報告のあったのは117万床で、高度急性期16万床、急性期52万床、回復期16万床、慢性期33万床となっています。回復期と慢性期がコロナ患者を受け入れないとすると、病床の42%に当たる49万床は病人を直ちに受け入れるものではないことになります。

 国立・公立・公的医療機関病床数45万床では、高度急性期6万床、急性期20万床です。つまり、急性期以上は26万床で全体の割合とほぼ同じですが、これらの病院を新型コロナ発生のようなときに対応の中心にしようとの意見があります。しかし、これらの機関に新型コロナ患者を集中させるのは、医療職員の不足に加え、補助金の上乗せも必要とするでしょうから民間病院との公平な競争上の問題もあります。

 欧米で慢性期病床があるフランスや米国と日本を比較してみると、慢性期病床は全病床数のそれぞれ約7.8%、6.5%であり、日本の約20%というのは非常に多いものです⑵。病床数は世界一でも、新型コロナ患者受け入れが少ない理由はここにあります。

 (4)医療職員の現状

 先に申し上げた7施設それぞれで働く医師数および看護師数は(表1)の通りです。

 病床機能別の職員数は直接の数字がないので、病床数から人員基準(医療法標準)で必要とされる人数を出すという私の粗い計算では、回復期病床16万床で医師数4000人、看護師数5万3000人、慢性期病床33万床で医師数5000人、看護師数8万3000人ほどと推計されます。判明している合計との差は、実際は高度急性期・急性期に多くの職員が配置されているからと推測されます。

 介護保険施設で働いている看護師数は、19年度で約9万人、入所定員は99万人です。

 (5)病院医師の労働時間の異常な長さ

 業務が集中している一部病院の労働条件は本当にひどいのに、医師が労働基準法の例外とされたのには驚きました⑶。労働基準がそのようなものであるはずはありません。医師は「過労死ラインの倍」でいいのでしょうか。

 これは、例えば新型コロナ患者が急増したときに、病院内の医師を総動員して対応できるようにすることも含め根本的な是正を図るべきで、十分な医師を病院に配置し、病床数を適切にした上で、1床当たりの医師数を大幅に増やす必要があります。日本の1床当たりの医師数は世界最少と言ってもよく、現在の3倍にしてもドイツ・フランス並みで、米国の6割ほどにすぎません。

 (6)費用の増大

 OECD基準で日本の保健支出費は19年度で約60兆円ですが、その高齢者医療費には、後期高齢者医療保険の費用に加え介護保険施設費が含まれます。本格的な増加抑制のためには、病院制度および介護保険施設制度の抜本改正が必要です。全国の後期高齢者医療保険の月額保険料は平均約6300円、介護保険料基準額は6014円です。

 ただ、新たに決められる構造設備や医療職員が拡充される病院には十分な資金を配分し、制度改革で費用を捻出すべきではないと考えます。


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