教えて!けいゆう先生

非常に多い「薬を包装ごと飲み込む」事故
~誰にでも起こる"うっかりミス"を防ぐために~ 外科医・山本 健人

 突然ですが、あなたの自宅にある錠剤の包装を、いま一度、ご覧ください。

 ミシン目は、どのように入っているでしょうか。

 よほど古い薬でない限り、ミシン目は縦か横のいずれか、一方向にしか入っていないはずです。つまり、1錠ずつ切り離せない仕様になっているでしょう。

処方されるたくさんの錠剤(写真はイメージです)【時事通信社】

 なぜこのようになっているか、ご存知でしょうか。

 1錠ずつに切り離した包装を、そのまま飲み込んでしまう誤飲事故が後を絶たないからです。

 ◇恐ろしいPTP誤飲

 錠剤の入った包装のことを、PTP(Press Through Package)といいます。

 PTPの誤飲事故は非常に多く、しばしば全国各地で起こっています。薬を包装から出さずに誤って包装ごと飲み込んでしまう人は、意外なほど多いのです。

 国民生活センターが過去に行った調査によれば、報告のあった誤飲事故のうち、約8割が60代以上です。(1)

 とはいえ、このような「うっかりミス」は誰にでも起こり得るため、油断は禁物です。実際、高齢者に限らず、若い人にもPTPの誤飲は起こっています。

 1錠ずつに切り離したPTPは、角が鋭利です。喉から食道を通る際に表面を傷つけて出血したり、腸の途中で詰まって壁を突き破ったりする恐れがあります。

 また、一般的にPTPはレントゲンに写らないため、包装ごと薬を飲み込んだことに本人が気づいていないケースは、特に危険です。何となく体調が悪い、といった症状が現れても、なかなか原因を特定しづらいからです。

 ◇誤飲を予防するには

 こうした事故を予防する方法は、何よりまず、「PTPを1錠ずつに切り離さないこと」です。そもそも、ミシン目以外の部分でハサミを使って意図的に切らない限り、1錠ずつには切り離せません。

1錠ずつの切り離しは厳禁です。受け取る際に既に1回分がひとまとめになっている「一包化」をお勧めします(イラストは山本健人著「患者の心得」〈時事通信社刊〉より)【時事通信社】

 とはいえ、一度にたくさんの薬を飲まなければならない人は、1錠ずつに分けて整理したい思いもあるでしょう。

 その場合は、「一包化」という方法がお勧めです。「一包化」とは、薬を包装から全て出してもらい、同じタイミングで飲むものを一つの袋にまとめて入れた状態で手渡してもらう方法です。

 薬剤の種類によっては一包化が難しいものもありますので、医師や薬剤師に相談してみるとよいでしょう。

 厚生労働省からも、「高齢者、誤飲の可能性のある患者及び自ら医薬品の管理が困難と思われる患者については、必要に応じて一包化による処方を検討すること」との注意がなされています。(1)

 ここまで読んだあなたは、「自分はそんなことをするわけがない」と思ったかもしれません。しかし、病院で働く私たちからすれば、PTPの誤飲は「とてもよくある事故」の一つで、この事例を見たことのない医療従事者はほとんどいない、と言っていいほどです。

 日本薬剤師会などは、「おくすりは、包装シートから取り出してお飲みください!」とのメッセージとともに注意喚起ポスターを作製しているほか、消費者庁も「医薬品の包装シートは1錠ずつに切り離さないようにしましょう」と繰り返し注意を促しています。(2)

 何とぞ、ご注意いただきたいと思います。

 参考文献
(1) 「PTP包装シート誤飲防止対策について」
  https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000rwgy-img/2r9852000000rwif.pdf
(2)「高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう!」
  https://www.caa.go.jp/notice/entry/016426/

(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

(了)


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