教えて!けいゆう先生

同じ病気でも異なる症状
~知ってほしい「多様さ」~ 外科医・山本 健人

 医師として患者さんと話していると、こんな悩みをお聞きすることがあります。

 病気を持ちながら活躍している人を見ると、自分は治療に精一杯なのでつらくなる――。

 確かに、病気を治療しながら、あるいは重い病気を克服し、社会で活躍されている人たちが、報道などで取り上げられることはよくあります。

同じ時期に同じ病気にかかったとしても、経過は人によってさまざまです【時事通信社】

同じ時期に同じ病気にかかったとしても、経過は人によってさまざまです【時事通信社】

 これ自体は本当に素晴らしいことで、私自身もしばしば感動をいただいています。

 一方、これを見た患者さんが、ご自身に対してネガティブな感情を抱く必要は全くない、とも思います。

 病気の種類や重症度、症状の現れ方、周囲の環境などの社会的背景は、人によって多種多様だからです。

 ◇同じ病気でも全く異なる

 世の中には、おびただしい数の病気があります。

 同じ「病名」が付いていても、そのなかに多くのタイプが含まれ、その一つ一つが体に異なる変化をもたらします。

 また、たとえ同じ病名、同じタイプであっても、その「重さ」は人それぞれで、症状の現れ方もさまざまです。

 強い症状が現れ、日常生活の制限が大きくなってしまう人もいれば、そうでない人もいます。

 治療に伴う副作用についても、同じことが言えます。

 全く同じ薬を使って治療を受けていても、副作用が強く現れる人もいれば、そうでない人もいます。

 副作用を予防する薬が多く必要なケースもあれば、予防の必要すらないケースもあります。

 手術についても同様です。

 全く同じ種類の手術を受けても、回復のスピードや、術後のつらさは人それぞれです。

 翌日から歩ける人もいれば、倦怠(けんたい)感が強くて歩くのが難しい人もいます。

 ご高齢の人なら若い人より一様に回復が遅い、と思うかもしれませんが、そうとは限りません。

 70代、80代の患者さんが全身麻酔手術を受け、翌日には驚くほどお元気に病棟を歩いている姿を目にすることも、珍しくありません。一方で、20代、30代の若い患者さんが、手術の翌日はベッドに座るのが精一杯、ということもあります。

 もちろん逆もしかりです。病気や、受けた治療が同じであっても、それに対する体の反応は、本当に多種多様なのです。

 私自身、かつて全身麻酔手術を受け、入院、長期のリハビリを経験したことがあります。この時、自身の体が予想もつかない反応を見せ、驚いたことを覚えています。

 人によって経過が異なるものなのだと、身をもって体験したのです。

 ◇自身の変化しか分からない

 患者さんご本人は、「ご自身の体に起こった変化」しか知ることができません。

 一方、医療従事者として多くの患者さんと関わる中で実感するのは、患者さんごとに体に現れる変化の多様さです。

 不謹慎な表現かもしれませんが、病気と人体を理解することにおける、この「難解さ」こそが、医学の奥深さ、興味深さでもあります。この個々人の違い、多様性に潜む謎を解き明かし、治療に生かすことで、患者さんの幸せにつなげていくこともまた、医学の役割です。

 むろん、多様であるのは、医学的な条件だけではないでしょう。

 人によって、周囲の環境、得られるサポートの「質」や「量」は異なります。言うまでもなく、社会的な背景は患者さんによってさまざまだからです。

 自分自身を、同じ病気の他人に重ね合わせることの難しさ。

 これは、患者さんにも、病気に関する情報発信に携わる人たちにも、広く知っていただけるとありがたいと感じています。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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