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がんが進行しておなかに大量の水(腹水)がたまると、末期と判断され、抗がん薬治療は中止になる場合が多い。これまで、がん性腹水の積極的な治療は行われてこなかったが、要町病院腹水治療センター(東京都豊島区)の松崎圭祐センター長は、腹水を抜いて、素早くろ過濃縮し、体内に戻す腹水治療法を開発。末期がん患者でも腹水の苦痛が緩和され、抗がん薬治療の継続も可能になるという。
膵臓(すいぞう)がんや胃がん、卵巣がんなどでは、がん性腹膜炎に伴って大量の腹水がたまりやすい。腹部が張るために呼吸の苦しさや食欲不振、不眠などを招き、体力は著しく低下する。また腎臓を圧迫し、利尿薬を用いても尿が出なくなり、命が危険な状態に陥るだけでなく、腹水の影響で薬剤の効果が弱まるため、抗がん薬治療の継続も困難になる。
大量腹水の治療には、腹腔(ふくくう)内に針を刺して水を抜く方法があるが、腹水にはがん細胞だけでなく、アルブミンや免疫グロブリンなどの体に重要なタンパク質も大量に含まれており、これらを取り除くと患者の全身状態は悪くなる。そのため、「腹水は抜くと弱る」と言われて治療されないことが多かった。
松崎センター長が注目したのは、「腹水ろ過濃縮再静注法(CART)」。「CARTは、取り出した腹水をろ過し、がん細胞、血球、細菌などの細胞成分、さらに余分な水分と電解質を除去。元の腹水量の十分の一ほどのアルブミンや免疫グロブリンの濃縮液を作り、静脈内に点滴する方法です」
▽腹水を抜くと元気に
松崎センター長は2008年、CARTを改良した「KM―CART」を開発。一度に28リットルまでの腹水を抜き、簡便かつ短時間でのろ過処理が可能になった。患者には発熱などの副作用も少ない。腹水を除去すれば苦痛が緩和され、食欲も回復し、抗がん薬治療の再開も望める。回収されたがん細胞やリンパ球は、オーダーメードがん治療や創薬の研究に活用されるという。
要町病院では、年間1000人以上の患者にKM―CARTを行っている。他院で末期と見なされた患者が、腹水除去後は元気に日常生活に復帰する例も多い。松崎センター長は「腹水が大量にたまっても、がん治療を諦める必要はありません」と語る。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/06/15 05:00)
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