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東京慈恵会医科⼤学・⽣化学講座の本橋沙耶学部6 年⽣(当時)、⼭⽥幸司講師と吉⽥清嗣教授および同内科学講座・消化器・肝臓内科の及川恒⼀講師との共同研究により、肝がん細胞において⼀部の細胞質タンパク質が細胞内⼩器官である⼩胞体を起点として細胞外に放出される新規分泌機構を⾒つけました。本成果は肝がんの病態機構の理解につながることから今後、診断や治療法への応⽤が期待されます。
本成果は、2022 年8 ⽉31 ⽇(⽶国時間)に科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』オンライン版に掲載されました。
① ポイント
・ 細胞内⼩器官である⼩胞体が、通常の分泌タンパク質以外に、細胞質タンパク質の分泌拠点にもなっていることを発⾒しました。
・ 細胞質タンパク質が分泌されるための必須因⼦として⼩胞体膜タンパク質E-Syt1 の同定に成功しました。
・ 肝がんを対象に、抗体の細胞内送達技術を⽤いて細胞質タンパク質とE-Syt1 間相互作⽤を阻害する模擬的な治療実験を⾏ったところ、明らかな抗腫瘍効果が⾒られたことから、新しい治療法開発への応⽤が期待されます。
② 研究の背景
通常、分泌されるタンパク質はシグナルペプチド※1 と呼ばれるアミノ酸配列を持つ特徴がありますが、近年、シグナルペプチドを持たない細胞内タンパク質の分泌現象が報告され始めています。本研究チームは、肝がん細胞において、本来は細胞内でのみ局在すると考えられてきた核輸送因⼦importin ・1 やリン酸化酵素PKC・などの細胞質タンパク質※2 が細胞外に分泌する現象を⾒出しました(核輸送因⼦インポーティンa1の新たな機能の発⾒、肝がん細胞から特異的に異常分泌されるタンパク質「PKCd(デルタ)」を発⾒)。なかでもPKC・の細胞外分泌は肝がんでの特異性が⾼いだけでなく、腫瘍増殖に関わることも突き⽌めており、「細胞質タンパク質の分泌」が肝がんにおいて極めて重要な現象であることが明らかとなってきました。しかし、その分泌機構についてはいまだ解明されていない点が多く、特にがんにおける報告は今回初めてとなります。
③ 研究の成果と意義
本研究では、分泌される細胞質タンパク質の細胞内での動態に着⽬し、網羅的なプロテオミクス解析※3 を⾏いました。その結果、分泌されるimportin ・1 やPKC・が⼩胞体膜分⼦であるE-Syt1 と相互作⽤し、⼩胞体に局在することを新しく⾒つけました。さらに、本分泌にオートファジー※4 に関与する因⼦が関わっていることや、膜に包まれた⼩胞輸送※5 を介して最終的に細胞外に分泌されることも突き⽌めました(図1)。
図1
さらに抗体※6 を脂質ベースの試薬を⽤いて細胞内送達され、PKC・とE-Syt1 間相互作⽤を阻害したところ、肝がん細胞の増殖や腫瘍形成能が明らかに抑制されました(図2)。
図2
肝がんは慢性肝炎や肝硬変などを経て発がんすることが分かっていますが、肝発がんや腫瘍化の分⼦メカニズムはいまだに解明されていません。本研究チームは、すでにこの「細胞質タンパク質の分泌」が腫瘍形成に関与することを⽰す知⾒を得ていることから、本研究で⾒つかった機構が肝がんの本態解明や新規治療法の開拓に⼤きく貢献するものと考えております。
またこれまで⼩胞体は、シグナルペプチドを持つタンパク質の分泌にのみ関わると考えられてきましたが、本研究により、肝がん細胞では、細胞質タンパク質の分泌にも関わることが新たに分かりました。細胞外のタンパク質は、バイオマーカーやバイオ医薬品の標的になりやすいことから、今後、創薬分野への波及効果が⼤いに期待されます。
論⽂
タイトル
Extended-synaptotagmin 1 engages in unconventional protein secretion mediated via
SEC22B+ vesicle pathway in liver cancer
著者
Kohji Yamada†,*, Saya Motohashi†, Tsunekazu Oikawa, Naoko Tago, Rei Koizumi, Masaya
Ono, Toshiaki Tachibana, Ayano Yoshida, Saishu Yoshida, Masayuki Shimoda, Masahiro Oka,
Yoshihiro Yoneda, Kiyotsugu Yoshida*
†;共筆頭著者 *;責任著者
DOI: 10.1073/pnas.2202730119
(2022/09/26 16:24)
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