慢性肝炎〔まんせいかんえん〕
肝臓にリンパ球などの免疫細胞が集まって、肝臓の細胞が6カ月以上にわたってこわれ続ける状態が慢性肝炎です。HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)など肝炎ウイルスの感染や、自己免疫性肝炎がその原因です。急性肝炎とは異なり、原因が不明の場合はあまりありません。肝臓の細胞がこわれ続けると、そのあとを修復するために、皮膚をけがした際のかさぶたと同様に、線維がふえてきますが、この線維化が高度になると肝硬変へと進展します。
ここではHBVやHCVの感染による慢性肝炎について説明します。自己免疫性の慢性肝炎に関しては、自己免疫性肝炎の項を参照してください。
■B型慢性肝炎
HBVは幼少期に感染すると、ウイルスが血中で検出される状態が持続するHBs抗原陽性のキャリアになります。もっとも多いのはHBs抗原陽性キャリアの母からの出産時感染ですが、1970年代までは予防注射で感染した場合も少なくありません。幼少期に感染すると、からだはHBVを異物とは認識せず、これを排除する免疫反応が起こりません。この時期が免疫寛容期で、症状がないばかりか、肝機能検査をおこなっても、肝臓の組織を生検して顕微鏡で観察しても、まったく異常のみられない無症候性キャリアの状態が続きます。しかし、この時期は血中のウイルス量が多く、血清HBV-DNAは高値のため、ほかの人に感染させやすい状態にあります。
20~30歳ごろになると、からだはHBVを異物と認識するようになり、これを排除しようとする免疫反応が起こります。この時期が免疫応答期で、血中のウイルス量はすこし減少しますが、肝臓の細胞が免疫反応に巻き込まれてこわれ、肝炎を発症して血清AST値、ALT値が上昇します。この時期にはHBVは免疫反応を逃れるため遺伝子に変異が起こります。その結果、HBe抗原がつくれなくなって、HBe抗体陽性になりますが、これをセロコンバージョンといいます。セロコンバージョンが起こっても、ウイルス量が十分低下しない場合は肝炎が沈静化しません。しかし、大部分のHBs抗原陽性キャリアでは免疫応答期が短期間で、遺伝子の変異が多くなって、ウイルスがふえなくなります。これが低増殖期で、血清HBV-DNA量が低値になって、肝炎が沈静化して、血清AST値、ALT値が正常の非活動性キャリアになります。また、一部のキャリアではHBs抗原も陰性化して、B型急性肝炎が治癒した既往感染例と同様の状態になります。これが寛解期です。
したがって、免疫応答期の期間が6カ月以上持続するキャリアがB型慢性肝炎と診断されます。母子感染などで幼少期にキャリアになった人のうち、慢性肝炎になるのは10%程度であり、大部分のキャリアは自然経過で非活動性キャリアになります。HBVの遺伝子型はAからJまで10種類ありますが、わが国のキャリアでもっとも多いのは遺伝子型がCのHBVで、遺伝子型がBのHBVがこれについでいます。一般に遺伝子型がCのHBVのキャリアは免疫応答期が長期間で、肝硬変に進展して肝がんもできやすいのに対して、遺伝子型がBのHBVは低増殖期に移行しやすいので病気が進むことは少ないといった特徴があります。
なお、低増殖期や寛解期のキャリアのみならず、急性肝炎が治癒したあとの患者さんも、肝臓の細胞の中にはHBVの遺伝子が残っています。このため免疫抑制療法、抗がん薬による化学療法などをおこなうと、これら肝炎が落ち着いた状態になっていても、血中のHBVが出てきて(再活性化)、肝炎を発症することがあります。HBVによる急性肝炎が治癒したあとの患者さんや、寛解期になったキャリアは、いずれもHBs抗原が陰性ですが、HBc抗体ないしHBs抗体が陽性で、既往感染例と呼んでいます。既往感染例が免疫抑制療法、抗がん薬による化学療法などを受けてHBVが再活性化し、その結果おこる肝炎はde novo(デ・ノボ)B型肝炎といいます。これを防ぐために、医療従事者は日本肝臓学会が発表しているガイドラインを遵守する必要があります( 日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン 「資料3 免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン」)。
■C型慢性肝炎
HCVは成人で感染しても、70~80%ではウイルス感染が持続して、慢性肝炎を発症します。HBVのように肝臓にはウイルスがいてもまったく異常がみられない無症候性キャリアのような状態はありません。しかし、若いころに感染しても、病気はなかなか進みません。男性は60歳代、女性は70歳代ごろになると、慢性肝炎から肝臓が硬くなる肝硬変へと進み、肝がんができるリスクも高くなります。また、高齢になると、肝硬変にまで進んでいない慢性肝炎の段階でも、肝がんはできやすいことがわかってきました。
HCVの感染者の多くは、1990年以前の輸血などの医療行為が感染の原因であり、すでに高齢になっています。このため肝臓があまり硬くなっていない場合でも、血清AST値、ALT値が正常範囲内で肝機能異常がみられない場合でも、抗ウイルス療法を受けて、HCVを排除する必要があります。HCVを排除すると、肝臓にがんができるリスクは低下します。しかし、HCVを排除しても、慢性肝炎や肝硬変が治ったわけではありません。このためHCVを排除後も、肝がんを早期発見するための検査を続ける必要があります。
なお、HCVに感染している場合でも、抗ウイルス療法でHCVが排除されたあとの場合でも、肝臓に脂肪がたまると、肝臓にがんができるリスクが高くなります。このため患者さんは、体重をふやさないこと、お酒をあまり飲まないこと、糖尿病をしっかりコントロールすることなどの注意が必要です。
[症状]
患者さんが症状をうったえることはありません。健康診断で肝機能異常やHBV、HCVの感染が発見されて、医療機関に通院する場合が大部分です。
しかし、B型慢性肝炎は無治療でいると、突然、肝臓の炎症が激しくなり、血清AST値、ALT値が高くなることがあります。その際は全身倦怠(けんたい)感、食欲不振などをうったえたり、黄疸(おうだん)が出たりします。
また、C型慢性肝炎の患者さんは、抗ウイルス療法でHCVを排除すると、体調がよくなって元気になることが多く、実は無症状ではなかったのではないかと考えられるようになりました。からだの中では、HCVを攻撃するサイトカインが大量に出ており、患者さんはつらい状態にあったのですが、これに慣れてしまっていた可能性があります。
[診断]
まず、HBs抗原とHCV抗体を測定します。HBs抗原が陽性の場合は、HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA量などを測定して、病期(免疫寛容期、免疫応答期、低増殖期)を診断します。また、感染しているHBVの遺伝子型を確認します。いっぽう、HCV抗体陽性の場合はHCV-RNAを測定し、これが陽性でキャリアであることを確認します。また、遺伝子型(ジェノタイプ)や血清型(セログループ)も測定して、感染しているHCVの種類を確認します。
また、肝機能検査や画像診断法によって、肝臓がどのような状態にあるかを確認することも重要です。肝臓の炎症が激しいかどうか、慢性肝炎がどのくらい硬くなって肝硬変に近づいているかなどを、さまざまな肝機能検査値や画像所見を総合して診断します。
[治療]
HBV感染者で治療の適応があるのは、免疫応答期になった慢性肝炎の場合のみで、抗ウイルス療法をおこないます。治療の短期的な目標は、免疫応答期から低増殖期に向かわせることです。血清HBV-DNA量を低下させ、これによって肝炎が沈静化し、血清AST値、ALT値が正常化すると、肝臓の硬さも改善します。しかし、短期目標を達成しても、肝臓にがんができるリスクは十分低下しません。このため、長期目標は寛解期を目指すことで、HBs抗原が陰性化すると、肝がんのリスクは大幅に低下します。
B型慢性肝炎の治療で、短期目標を達成するためには、核酸アナログの内服による抗ウイルス療法をおこないます。現在、おもに用いられているのは、エンテカビルとテノホビル・アラフェナミドという核酸アナログで、いずれもほとんど副作用はなく、内服を続ければ血清HBV-DNA量が低下して、血清AST値、ALT値は正常化します。しかし、これら核酸アナログを内服しても、血清HBs抗原量はあまり低下しません。そこで、長期目標を達成するためには、核酸アナログを内服しながら、ペグ・インターフェロンを週1回1年間皮下注射します。これをadd-on(アド・オン)療法と呼んでいます。ペグ・インターフェロンは初回投与時に発熱、筋肉痛などの症状が出現したり、頻度は少ないのですが、免疫の異常による肺や甲状腺の病気を起こすことがあります。これら副作用に注意しながら、治療する必要があります。うまくいくとHBs抗原量が低下して、肝臓にがんができるリスクが大幅に低下します。なお、若い患者さんや、遺伝子型がAのHBV感染の場合には、ペグ・インターフェロンの効果が高いことが知られています。核酸アナログは中止できる患者さんがごくわずかですので、これらの患者さんではペグ・インターフェロンを単独で1年間投与する治療をおこなう場合があります。
HCVはHBVと違って、ウイルスを完全に排除することが可能です。このためHCVに感染している場合は、肝機能が正常であっても、高齢であっても、原則的に全例で抗ウイルス療法を実施します。2014年までは治療にペグ・インターフェロンを用いていましたが、現在は、直接型抗ウイルス薬(DAA)を内服する治療がおこなわれます。DAAには、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬があります。C型慢性肝炎では、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(グレカプレビル)とNS5A複製複合体阻害薬(ピブレンタスビル)の配合錠(グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠)を、1日1回3錠で8週間内服することによって、99%以上の患者さんでHCVを排除することが可能です。内服を開始後1~2週は軽度のかゆみが出ることがありますが、副作用はほとんどありません。また、2022年8月以降は非代償性肝硬変の治療に用いられていたNS5Bポリメラーゼ阻害薬(ソホスブビル)とNS5A複製複合体阻害薬(ベルパタスビル)の配合錠(ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠)も慢性肝炎に用いることが可能になり、1日1回1錠を12週間内服することで、同様に大部分の患者さんでHCVを排除できるようになりました。以前のDAAによる治療が不成功で、まだHCVを排除できていない場合は、各都道府県にある肝疾患診療連携拠点病院で、DAAが効かなかった原因(薬物耐性アミノ酸変異)を調べ、特殊な変異(NS5A-P32欠損)がない場合は、グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠を用いた12週の治療をおこないます。特殊な変異がある場合やグレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠による治療でHCVを排除できなかった場合は、ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠を1日1錠で、その効果を強くするリバビリンとともに、24週間内服する治療をおこないます。これらの治療で、1回治療が不成功になった患者さんでも、ほぼ全例でHCV排除が可能です。
なお、HBV、HCVの抗ウイルス療法をおこなう場合には、肝炎治療特別促進事業による医療費の助成を受けることができます。
[予後]
抗ウイルス療法でHBVがコントロールされたり、HCVが排除できたりしても、慢性肝炎が治ったわけではありません。肝臓にがんができるリスクが残ります。肝臓の硬さや脂肪沈着の有無を、肝機能検査や画像検査で調べ、肝がんができるリスクを評価したうえで、それぞれの患者さんにあった期間で、肝がんのスクリーニング検査を続ける必要があります。
ここではHBVやHCVの感染による慢性肝炎について説明します。自己免疫性の慢性肝炎に関しては、自己免疫性肝炎の項を参照してください。
■B型慢性肝炎
HBVは幼少期に感染すると、ウイルスが血中で検出される状態が持続するHBs抗原陽性のキャリアになります。もっとも多いのはHBs抗原陽性キャリアの母からの出産時感染ですが、1970年代までは予防注射で感染した場合も少なくありません。幼少期に感染すると、からだはHBVを異物とは認識せず、これを排除する免疫反応が起こりません。この時期が免疫寛容期で、症状がないばかりか、肝機能検査をおこなっても、肝臓の組織を生検して顕微鏡で観察しても、まったく異常のみられない無症候性キャリアの状態が続きます。しかし、この時期は血中のウイルス量が多く、血清HBV-DNAは高値のため、ほかの人に感染させやすい状態にあります。
20~30歳ごろになると、からだはHBVを異物と認識するようになり、これを排除しようとする免疫反応が起こります。この時期が免疫応答期で、血中のウイルス量はすこし減少しますが、肝臓の細胞が免疫反応に巻き込まれてこわれ、肝炎を発症して血清AST値、ALT値が上昇します。この時期にはHBVは免疫反応を逃れるため遺伝子に変異が起こります。その結果、HBe抗原がつくれなくなって、HBe抗体陽性になりますが、これをセロコンバージョンといいます。セロコンバージョンが起こっても、ウイルス量が十分低下しない場合は肝炎が沈静化しません。しかし、大部分のHBs抗原陽性キャリアでは免疫応答期が短期間で、遺伝子の変異が多くなって、ウイルスがふえなくなります。これが低増殖期で、血清HBV-DNA量が低値になって、肝炎が沈静化して、血清AST値、ALT値が正常の非活動性キャリアになります。また、一部のキャリアではHBs抗原も陰性化して、B型急性肝炎が治癒した既往感染例と同様の状態になります。これが寛解期です。
したがって、免疫応答期の期間が6カ月以上持続するキャリアがB型慢性肝炎と診断されます。母子感染などで幼少期にキャリアになった人のうち、慢性肝炎になるのは10%程度であり、大部分のキャリアは自然経過で非活動性キャリアになります。HBVの遺伝子型はAからJまで10種類ありますが、わが国のキャリアでもっとも多いのは遺伝子型がCのHBVで、遺伝子型がBのHBVがこれについでいます。一般に遺伝子型がCのHBVのキャリアは免疫応答期が長期間で、肝硬変に進展して肝がんもできやすいのに対して、遺伝子型がBのHBVは低増殖期に移行しやすいので病気が進むことは少ないといった特徴があります。
なお、低増殖期や寛解期のキャリアのみならず、急性肝炎が治癒したあとの患者さんも、肝臓の細胞の中にはHBVの遺伝子が残っています。このため免疫抑制療法、抗がん薬による化学療法などをおこなうと、これら肝炎が落ち着いた状態になっていても、血中のHBVが出てきて(再活性化)、肝炎を発症することがあります。HBVによる急性肝炎が治癒したあとの患者さんや、寛解期になったキャリアは、いずれもHBs抗原が陰性ですが、HBc抗体ないしHBs抗体が陽性で、既往感染例と呼んでいます。既往感染例が免疫抑制療法、抗がん薬による化学療法などを受けてHBVが再活性化し、その結果おこる肝炎はde novo(デ・ノボ)B型肝炎といいます。これを防ぐために、医療従事者は日本肝臓学会が発表しているガイドラインを遵守する必要があります( 日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン 「資料3 免疫抑制・化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン」)。
■C型慢性肝炎
HCVは成人で感染しても、70~80%ではウイルス感染が持続して、慢性肝炎を発症します。HBVのように肝臓にはウイルスがいてもまったく異常がみられない無症候性キャリアのような状態はありません。しかし、若いころに感染しても、病気はなかなか進みません。男性は60歳代、女性は70歳代ごろになると、慢性肝炎から肝臓が硬くなる肝硬変へと進み、肝がんができるリスクも高くなります。また、高齢になると、肝硬変にまで進んでいない慢性肝炎の段階でも、肝がんはできやすいことがわかってきました。
HCVの感染者の多くは、1990年以前の輸血などの医療行為が感染の原因であり、すでに高齢になっています。このため肝臓があまり硬くなっていない場合でも、血清AST値、ALT値が正常範囲内で肝機能異常がみられない場合でも、抗ウイルス療法を受けて、HCVを排除する必要があります。HCVを排除すると、肝臓にがんができるリスクは低下します。しかし、HCVを排除しても、慢性肝炎や肝硬変が治ったわけではありません。このためHCVを排除後も、肝がんを早期発見するための検査を続ける必要があります。
なお、HCVに感染している場合でも、抗ウイルス療法でHCVが排除されたあとの場合でも、肝臓に脂肪がたまると、肝臓にがんができるリスクが高くなります。このため患者さんは、体重をふやさないこと、お酒をあまり飲まないこと、糖尿病をしっかりコントロールすることなどの注意が必要です。
[症状]
患者さんが症状をうったえることはありません。健康診断で肝機能異常やHBV、HCVの感染が発見されて、医療機関に通院する場合が大部分です。
しかし、B型慢性肝炎は無治療でいると、突然、肝臓の炎症が激しくなり、血清AST値、ALT値が高くなることがあります。その際は全身倦怠(けんたい)感、食欲不振などをうったえたり、黄疸(おうだん)が出たりします。
また、C型慢性肝炎の患者さんは、抗ウイルス療法でHCVを排除すると、体調がよくなって元気になることが多く、実は無症状ではなかったのではないかと考えられるようになりました。からだの中では、HCVを攻撃するサイトカインが大量に出ており、患者さんはつらい状態にあったのですが、これに慣れてしまっていた可能性があります。
[診断]
まず、HBs抗原とHCV抗体を測定します。HBs抗原が陽性の場合は、HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA量などを測定して、病期(免疫寛容期、免疫応答期、低増殖期)を診断します。また、感染しているHBVの遺伝子型を確認します。いっぽう、HCV抗体陽性の場合はHCV-RNAを測定し、これが陽性でキャリアであることを確認します。また、遺伝子型(ジェノタイプ)や血清型(セログループ)も測定して、感染しているHCVの種類を確認します。
また、肝機能検査や画像診断法によって、肝臓がどのような状態にあるかを確認することも重要です。肝臓の炎症が激しいかどうか、慢性肝炎がどのくらい硬くなって肝硬変に近づいているかなどを、さまざまな肝機能検査値や画像所見を総合して診断します。
[治療]
HBV感染者で治療の適応があるのは、免疫応答期になった慢性肝炎の場合のみで、抗ウイルス療法をおこないます。治療の短期的な目標は、免疫応答期から低増殖期に向かわせることです。血清HBV-DNA量を低下させ、これによって肝炎が沈静化し、血清AST値、ALT値が正常化すると、肝臓の硬さも改善します。しかし、短期目標を達成しても、肝臓にがんができるリスクは十分低下しません。このため、長期目標は寛解期を目指すことで、HBs抗原が陰性化すると、肝がんのリスクは大幅に低下します。
B型慢性肝炎の治療で、短期目標を達成するためには、核酸アナログの内服による抗ウイルス療法をおこないます。現在、おもに用いられているのは、エンテカビルとテノホビル・アラフェナミドという核酸アナログで、いずれもほとんど副作用はなく、内服を続ければ血清HBV-DNA量が低下して、血清AST値、ALT値は正常化します。しかし、これら核酸アナログを内服しても、血清HBs抗原量はあまり低下しません。そこで、長期目標を達成するためには、核酸アナログを内服しながら、ペグ・インターフェロンを週1回1年間皮下注射します。これをadd-on(アド・オン)療法と呼んでいます。ペグ・インターフェロンは初回投与時に発熱、筋肉痛などの症状が出現したり、頻度は少ないのですが、免疫の異常による肺や甲状腺の病気を起こすことがあります。これら副作用に注意しながら、治療する必要があります。うまくいくとHBs抗原量が低下して、肝臓にがんができるリスクが大幅に低下します。なお、若い患者さんや、遺伝子型がAのHBV感染の場合には、ペグ・インターフェロンの効果が高いことが知られています。核酸アナログは中止できる患者さんがごくわずかですので、これらの患者さんではペグ・インターフェロンを単独で1年間投与する治療をおこなう場合があります。
HCVはHBVと違って、ウイルスを完全に排除することが可能です。このためHCVに感染している場合は、肝機能が正常であっても、高齢であっても、原則的に全例で抗ウイルス療法を実施します。2014年までは治療にペグ・インターフェロンを用いていましたが、現在は、直接型抗ウイルス薬(DAA)を内服する治療がおこなわれます。DAAには、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬があります。C型慢性肝炎では、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(グレカプレビル)とNS5A複製複合体阻害薬(ピブレンタスビル)の配合錠(グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠)を、1日1回3錠で8週間内服することによって、99%以上の患者さんでHCVを排除することが可能です。内服を開始後1~2週は軽度のかゆみが出ることがありますが、副作用はほとんどありません。また、2022年8月以降は非代償性肝硬変の治療に用いられていたNS5Bポリメラーゼ阻害薬(ソホスブビル)とNS5A複製複合体阻害薬(ベルパタスビル)の配合錠(ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠)も慢性肝炎に用いることが可能になり、1日1回1錠を12週間内服することで、同様に大部分の患者さんでHCVを排除できるようになりました。以前のDAAによる治療が不成功で、まだHCVを排除できていない場合は、各都道府県にある肝疾患診療連携拠点病院で、DAAが効かなかった原因(薬物耐性アミノ酸変異)を調べ、特殊な変異(NS5A-P32欠損)がない場合は、グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠を用いた12週の治療をおこないます。特殊な変異がある場合やグレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠による治療でHCVを排除できなかった場合は、ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠を1日1錠で、その効果を強くするリバビリンとともに、24週間内服する治療をおこないます。これらの治療で、1回治療が不成功になった患者さんでも、ほぼ全例でHCV排除が可能です。
なお、HBV、HCVの抗ウイルス療法をおこなう場合には、肝炎治療特別促進事業による医療費の助成を受けることができます。
[予後]
抗ウイルス療法でHBVがコントロールされたり、HCVが排除できたりしても、慢性肝炎が治ったわけではありません。肝臓にがんができるリスクが残ります。肝臓の硬さや脂肪沈着の有無を、肝機能検査や画像検査で調べ、肝がんができるリスクを評価したうえで、それぞれの患者さんにあった期間で、肝がんのスクリーニング検査を続ける必要があります。
(執筆・監修:埼玉医科大学 教授〔消化器内科・肝臓内科〕 持田 智)