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H1抗ヒスタミン薬の注意すべき副作用と発症時期を特定
~日本人リアルワールドデータを用いて調査~

 東京慈恵会医科大学 医学部医学科5年生 高塚美郁子、臨床薬理学講座 志賀剛教授らは日本の医薬品副作用報告データベース(JADER)を用いて、22種類のH1抗ヒスタミン薬に関連する14の有害事象の報告件数と発症時期を後ろ向きに解析し、H1抗ヒスタミン薬で頻発する副作用の特徴を明らかにしました。

 本研究の成果は、2025年4月22日付で「International Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics,」誌に原著論文として掲載されました(1)。

本研究のポイント

脱毛症、血管浮腫、肝毒性、意識消失、スティーブンス・ジョンソン症候群などの有害事象でシグナルが高かったことから、より抗ヒスタミン薬に特異的であった

・アナフィラキシーや皮膚疾患など重篤な有害事象は治療開始から1週間以内に多く発症していた

・肝毒性や再生不良性貧血などの有害事象は、治療の期間中を通じて発症していた

 H1抗ヒスタミン薬は、我が国でもアレルギー疾患等で広く使用されているにもかかわらず、リアルワールドでの有害事象(AE)については体系的に評価されていませんでした。この研究により、H1抗ヒスタミン薬を処方した患者において、とくに注意すべき副作用と投与後の期間が明らかとなり、日常診療における薬物モニタリングやファーマコビジランスの指針として活用できることが期待されます。

研究メンバー:

・東京慈恵会医科大学 医学部医学科 5年生 高塚 美郁子

・東京慈恵会医科大学 臨床薬理講座 教授 志賀 剛

・東京慈恵会医科大学 臨床薬理講座 教授 橋口 正行

(1)Mikako Takatsuka, Masayuki Hashiguchi, Tsuyoshi Shiga. H1 antihistamine-induced adverse events and time to onset: A retrospective analysis using the Japanese Adverse Drug Event Report Database PMID: 40260600 DOI: 10.5414/CP204707

Int J Clin Pharmacol Ther . 2025 Apr 22. doi: 10.5414/CP204707. Online ahead of print.

(研究の詳細)

1.研究背景

 H1抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎、蕁麻疹、その他のアレルギー性疾患および非アレルギー性疾患の治療に広く使用されており、一般的に安全であると考えられています。現在、H1抗ヒスタミン薬は第一世代と第二世代抗ヒスタミン薬の2種類があります。

 第一世代のH1抗ヒスタミン薬は血液脳関門を容易に通過し、中枢神経系(CNS)のH1受容体に結合し、CNSの機能を阻害します。また、ムスカリン受容体、αアドレナリン受容体、セロトニン受容体、心筋イオンチャネルを阻害します。そのため、第一世代のH1抗ヒスタミン薬は、口渇、排尿困難、頻脈、食欲亢進、めまい、QT延長、心室性不整脈などのさまざまな副作用(ADR)や、眠気、鎮静、傾眠、疲労などのCNS症状も引き起こします。第二世代のH1抗ヒスタミン薬はH1受容体に特異的であり、脂溶性で中枢神経系血管内皮細胞に発現するP糖タンパク質に親和性があるため血液脳関門を通過しにくく、CNSへの浸透性が低くなっています。その結果、これらのADR、特にCNS症状が少なくなっています。このようにH1抗ヒスタミン薬は一般に安全であると考えられていますが、なかには心毒性、中枢神経系(CNS)抑制、抗コリン作用などの副作用を経験する患者もいます。

 近年、ファーマコビジランスや医薬品モニタリングなどの医薬品の安全性監視医薬品の安全性監視において、大規模データベースの活用が不可欠となっています。日本では H1 抗ヒスタミン薬がアレルギー性疾患を中心に広く使用されているにもかかわらず、その有害事象(AE)の典型的な特徴について、大規模なリアルワールドデータを用いた系統的な調査・分析は行われていません。

2.手法

 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) に提供されている医薬品副作用データベースJADER(Japanese Adverse Drug Event Report)を用いてH1抗ヒスタミン薬によるAEの特徴について検討を行いました。抗ヒスタミン薬は第一世代(クレマスチン、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン、プロメタジン)、第二世代(アリメマジン、アゼラスチン、ベポタスチン、ビラスチン、セチリジン、デスロラタジン、エメダスチン、エピナスチン、 エバスチン、フェキソフェナジン、ケトチフェン、レボセチリジン、ロラタジン、メキタジン、オキサトミド、オロパタジン、ルパタジン)の22種類の抗ヒスタミン薬について、高頻度で臨床的によくみられる14のAE(脱毛症、血管浮腫、痙攣・てんかん、肝毒性、意識障害、スティーブンス・ジョンソン症候群、薬疹・中毒性発疹、多形紅斑、アナフィラキシー、再生不良性貧血、腎障害、間質性肺炎、血小板減少、無顆粒球症、)を抽出し、性別と年齢を調整した報告オッズ比、およびワイブル分布を使用して発症までの時間イベントを解析しました。

3.成果

 報告オッズ比は脱毛症(56.6)で最も高く、次いで血管浮腫(3.2)、肝毒性(2.6)、意識消失(2.4)、スティーブンス・ジョンソン症候群(2.1)でした。AE発症までの期間は、アナフィラキシー、スティーブンス・ジョンソン症候群、薬物/中毒性発疹、血管性浮腫、けいれん/てんかんでは、H1抗ヒスタミン薬使用後1週間以内に発生していた(Figure 1)。肝毒性、意識喪失、けいれん/てんかん肺炎、再生不良性貧血は、H1抗ヒスタミン薬治療を通じて時間の経過とともに発生していました。本研究により、H1抗ヒスタミン薬について、アナフィラキシーや中毒性皮膚疾患などの重篤なAEは、治療開始後1週間以内に発症し、肝毒性や脱毛症間質性肺炎、再生不良性貧血は治療期間中を通じて発症していることが明らかになりました。

4.今後の応用、展開

 H1抗ヒスタミン薬は、我が国でもアレルギー疾患等で広く使用されているにもかかわらず、リアルワールドでの有害事象(AE)については体系的に評価されていませんでした。この研究により、H1抗ヒスタミン薬を処方した患者において、とくに注意すべき副作用と投与後の期間が明らかとなり、日常診療における薬物モニタリングやファーマコビジランスの指針として活用できることが期待されます。

5.用語説明

※1 H1抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)

 ヒスタミンH1受容体は、主に血管内皮細胞、平滑筋細胞、神経細胞、皮膚や粘膜の免疫細胞の表面に分布しており、その受容体は血管の拡張、血管透過性、血圧、睡眠、記憶などの調節に関与している。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの作用を抑制する薬で、通常、ヒスタミンH1受容体拮抗薬を指します。鼻水などのアレルギー症状や酔い止めの成分として知られ、花粉症の薬や総合感冒薬にも含まれています。

※2 JADER(Japanese Adverse Drug Event Report)

 医薬品,医薬部外品,化粧品,医療機器が原因と推定される重篤な有害事象は,1967年以降医療機関や当該薬品の販売会社から厚生労働省に報告されています。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品副作用データベース(Japanese Adverse Drug Event Report database: JADER)は,医薬品について2004年以降の「副作用が疑われる症例報告に関する情報『医薬品副作用データベース』」をまとめたもので,PMDAのWebページで2012 年4月に公開され,毎月更新されています。

※3 報告オッズ比

 報告オッズ比は、特定の結果(副作用など)が発生するオッズが、ある特定の医薬品の曝露(投与)を持つ群と持たない群とでどの程度異なるかを示す統計的な指標です。オッズ比が1とは、ある特定の副作用の発現のしやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、特定の副作用の発現のしやすさがある群でより高いことを意味します。

※4 有害事象(AE)と副作用(ADR)

 医薬品の「有害事象(adverse event; AE)」とは、医薬品の服用後に起きた、あらゆる健康上の問題のことであり、因果関係が明らかでないものも含みます。一方、医薬品の「副作用(adverse drug reaction; ADR)」とは、「有害事象」の中で因果関係が明らかなものを指します。。

※5 ファーマコビジランス

 ファーマコビジランス(安全性情報監視)とは、世界保健機関(WHO)では“医薬品の有害な作用または医薬品に関連するその他の問題の検出・評価・理解・予防に関する科学と活動”と定義されており、医薬品の開発中から発売後も継続的に行われる安全性情報監視の活動を指しております。


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