治療・予防

前立腺がんに新治療法
~性的機能維持、失禁防ぐ~

 前立腺肥大や前立腺がんは男性固有の病気で、女性の関心は低いかもしれない。男性でも「前立腺がんは他のがんに比べてたちが良い」と軽く見がちだ。しかし、罹患(りかん)者数は男性のがんの1位を占め、死亡数も上昇傾向にある。死亡率に加え、男性にとって問題なのは性的機能を失う恐れだ。超音波を用い、がんの部分を狙い撃ちする療法が先進医療として認められ、治療の新戦略になると期待されている。

前立腺の位置

 PSA検査で発見増える

 国立がん研究センターによると、2020年に前立腺がんと診断された人は約9万5000人で、死亡したのは約1万3000人になる。

 超音波による療法に取り組んでいる東海大学医学部の小路直(しょうじ・すなお)准教授(腎泌尿器科学)は「前立腺は骨盤の奥にあるクルミ大の器官で、排尿機能や性機能に影響を及ぼす」と話す。

 前立腺がん患者が増加した背景には、このがんの早期発見に有効な「PSA検査」により見つかる人が増えたことがある。2015年の前立腺研究財団住民検診における同検査の実施率は83.0%と高く、発見されたがんの75.5~78.4%が転移のない早期がんだった。

小路直・准教授

 ◇手術、放射線のデメリット

 MRIの進歩によって、患者の予後に影響を及ぼすがんの病巣を高精度で診断できるようになった。新しい診断プロセスでは、PSA検査で高い数値が出ると、MRIを用いて評価し、がんが疑われる場合は生検を実施する。ただ、生検は針を刺すため患者の負担は少なくない。MRIと超音波画像を組み合わせることで針を刺すポイントを絞り、患者の負担を軽減できる。

 標準治療には、ロボット支援下手術によるケースが多い外科的切除と放射線治療がある。東海大学医学部付属病院のケースだと、外科的切除は7~10日間入院、放射線治療では20~40日間通院するという。

 外科的切除の場合、「尿道括約筋を傷付けてしまう危険が伴う」と小路准教授は指摘する。これまでの世界中からの報告では、ロボット支援下手術を受けて12カ月後に尿を漏らしてしまう割合は、約10~31%だという。小路准教授はそこから、「日本人では2割くらいの患者がオムツパッドを必要としているのではないか」とみている。

 放射線治療も前立腺の形に沿ってきれいに照射するのは難しい面があり、ぼうこうや直腸の出血を招く恐れがある。

 「男性にとって深刻な勃起障害は、手術でも放射線でも同じ程度の割合で起こる」

高密度焦点式超音波療法のイメージ

 ◇がん組織だけを壊死

 小路准教授らが取り組む「高密度焦点式超音波療法」は、こうしたデメリットを減らすのが目的だ。「他の臓器に影響を与えないようにする。がん組織だけに超音波のエネルギーを収束させ、その部分だけを壊死(えし)させる」

 63歳の男性は、PSAの数値が高く、生検でがん組織が見つかった。この時の治療時間は全体で55分、超音波の照射時間は22分。治療から54カ月が経過した時点で尿失禁はなく、勃起機能も保たれていた。

 小路准教授らの発表した論文によると、高密度焦点式超音波療法を受けた90人の治療時間は39.5分(中央値)、治療後は24時間以内に退院しているという。

 ただ、前立腺がんには「多発タイプ」「限局タイプ」「低悪性度タイプ」の3種類があり、多発タイプでは外科的切除や放射線治療が勧められる。小路准教授が超音波療法を選択するのは、PSA値がある基準(20ng/mL)以下で年齢は20歳以上、限局タイプの患者が中心だ。

 ◇先進医療として承認

 この治療法は2023年2月、厚生労働省に先進医療「B」として承認された。先進医療は、先進的な医療技術と保険診療との併用が認められている。「B」と「A」に優劣はないが、「B」はより厳しい審査を受ける。

 小路准教授は「超音波療法は費用的な負担が少ない」とした上で、「大阪や金沢などの医療機関から『やってみたい』という打診がある。他の医療機関と連携しながら、ロボット支援下手術などと比較したデータを取っていきたい」と言う。(鈴木豊)

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