Dr.純子のメディカルサロン

ハラスメントなぜなくならない?

 ハラスメントに関する報道が増えています。これはハラスメントが自体が増えたというより、これまで水面下でうやむやにされてきた問題が浮上してきたのではないかと思います。企業だけでなく教育機関、行政機関、野球界、芸能界などさまざまな場で、今まで「仕方ない」とされてきたハラスメントに対して声を上げてもいいのだという空気が出てきたと言えるでしょう。

(文 海原純子)

ハラスメントの放置は企業業績・価値の低下につながる(イメージ)

 ◇厳しい対応が不可欠

 ハラスメントは職場やその集団において、地位や人間関係などで優位な立場にある者が、業務の適正な範囲を超えて相手に身体的・肉体的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為とされています。先日、プロ野球楽天の安楽智大投手が若手選手へのパワハラで自由契約になり、衝撃が走りましたが、ハラスメントに関して緩いと言われてきた日本社会で経営陣が迅速な判断を下したことは、改革への姿勢を示したものと言えるかもしれません。

 ハラスメントは職場環境を確実に悪化させます。仕事へのモチベーションが低下するほか、社内のコミュニケーションやメンタルヘルスにも影響し、業績は低下します。ハラスメントの放置は企業価値の低下に直結するので迅速な対処が必要でしょう。

 海外のグローバル企業では非常に厳しい対応がなされています。ハラスメント防止のカギは、判明したら「一発でアウト」という姿勢をトップが示すことだと思います。

 ◇繰り返す人の心理

 産業医として面談をするとき、うつになり休職や退職に追い込まれる方の背景にハラスメントがあることが非常に多いと気付きます。同じ人物が何度も行っていて、中にはハラスメント研修を受けているにもかかわらず繰り返す場合があるのです。

 そうしたケースに共通するのは、企業トップが黙認していたり、ハラスメントが経営陣まで報告されていなかったり、嫌がらせをする人がうっぷんを抱えていたりすることです。企業トップが黙認しているのは、加害側の人物の営業成績や業績がいいため、多少の問題があっても仕事ができればいいとしているためです。トップが注意せず黙認するので、本人も問題がないと考え、ハラスメントをしているという自覚が育ちません。

 ◇自覚なし

 楽天を自由契約になった安楽選手も、学生時代から実績を残してきたので「やんちゃなところがあった」という声を聞きます。何よりも野球の成績が重視される環境にあって、やってはいけないことをトップから言われてこなかった可能性もあると思われます。何度も繰り返す人には自覚がないことが多く、自覚を促すにはやはりトップの姿勢が不可欠です。トップがこうした問題に目をつぶっていては、働く場のメンタルヘルスは悪化します。「駄目なものは駄目」という明確な基準が大事でしょう。

 ◇上司がうっぷん晴らし

 ハラスメントをする人自身がストレスを抱えており、うっぷん晴らしに部下や立場が弱い人に不満などをぶつける場合があります。ストレスへの対処が下手で言い返せない相手に暴言を吐き、すっきりさせてしまうのです。ハラスメントを受ける人は上司らの言動に絶えずびくびくし、うつ状態に追い込まれたり、怒鳴り声で不安症状を起こしたりする人もいます。

 ◇五つの防止対策

 1.トツプが旗振り役になれるか

 「ハラスメントを企業トップが許さない」という明確なメッセージの公表が大事です。トップが旗を振れば、ハラスメントをうやむやにしないという意識を高められます。欧米のグローバル企業では、防止指針についてホームページでCEOがビデオメッセージにより発表するなど、組織のガバナンスとして取り組んでいる例があります。ハラスメントが職場のメンタルヘルスを悪化させ、企業の永続的発展を妨害するという認識がもとになっています。
 日本では企業トップ自身がこうした取り組みを実施しているのはごくわずかです。ただ、こうしたトップの姿勢が分かれば、縦型構造の組織であればあるほどその影響は大きく、改革がスムーズに進むと思われます。

 2.明確な規則

 ハラスメントに関して具体的・明確にNGルールをつくり、社内で共有する必要があります。これまでの事例などを入れ、分かりやすくすることが大事です。グレーゾーンと思われるものを放置せずにきちんと話し合い、組織ガバナンスとして基準をつくる必要があるでしょう。

 3.実態を把握

 無記名アンケートなどで定期的に問題点を把握しておくことも必要です。

 4.研修や教育

 従業員だけでなく、経営陣なども含め全員がハラスメントやメンタルヘルスについて知識を得られるようにします。人事・総務の担当者任せにせず、経営陣が自分の問題として捉えてほしいと思います。

 5.相談窓口の設置

 企業内外の相談窓口と対応責任者を決め、外部専門家と連携しましょう。こうした窓口を目につく場所に置きます。洗面所などに連絡先を記載した名刺サイズの紙を置き、持ち帰ることができるようにしている企業もあります。


 「日本はハラスメントに甘いよね」と言われたりしています。これから海外の人材を受け入れたり海外に企業が進出したりする際、ハラスメント対策に消極的と見られると大きなマイナスになりかねません。組織を挙げた取り組みが必要です。(了)

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