教えて!けいゆう先生

患者さんによくある薬の誤解
~点滴の回数は病気の重さと関係する?~ 外科医・山本健人

 私は以前、親類からこんなせりふを聞いたことがあります。

 「入院して1日に3回も抗生物質を点滴する羽目になったよ。昔入院した時は1日1回で済んだのに。今回はひどかったんだろうね」

 これは、医師と患者さんとの間でよく起こる、治療に対する解釈の食い違いです。

 1日に投与する薬の回数は、病気の重さと直接関連しているわけではありません。

 薬の種類によっては、「1日1回の投与」と決められているものもあれば、1日複数回の投与が必要なものもあります。

 軽い病気の治療に「1日5回の点滴」を要するケースもあれば、逆に、重い病気を治療する時に「1日1回の点滴」を行うケースもあります。

薬に対する誤解は少なくない

 ◇薬の種類で決まる

 原則として、薬の投与回数は、薬の種類に応じて決まっています。

 投与された薬は、体内で分解(代謝)され、体の各部位で作用したのち、最終的には尿や便によって排出されます。

 ごく簡単に書くなら、
 「ゆっくり分解され、必要な成分が体に長く残る薬なら、投与回数は少なく済む」

 一方で、

 「短時間で排出されてしまう薬なら、投与回数を多くし、短い間隔で成分を補充しなければならない」

と言えます。

 なお、薬が体から排出される速さは、患者さん自身の持つ特性によっても異なります。

 例えば、腎臓の機能が悪い人は、薬の成分を尿で体外に出す効率が悪いため、成分が体内に長く残りやすくなります。

 従って、抗生物質を含む多くの薬が、腎臓の機能に合わせて投与量や投与回数の調整を必要とします。

 ◇飲み薬と点滴

 ここまでで、「病気の重さ」と「薬の投与回数」が必ずしも直接関係しているわけではないことがお分かりいただけたでしょうか?

 さて、もう一つよくある解釈の食い違いをご紹介しましょう。

 それは、「飲み薬より点滴の方がよく効く」という誤解です。

 ドラッグストアで多くの飲み薬が買える一方、点滴の治療は入院して受けるのが一般的ですから、これが誤解の原因になっているのかもしれません。

 実際は、飲み薬より点滴の方が効果が勝るとは限らず、これも薬の種類によってさまざまです。

 ここで、点滴と飲み薬の違いについて考えてみましょう。

 点滴の治療では、血管内に直接薬が注入されます。飲み薬の場合は、口から取り入れた薬が、体内で(胃腸の中で)溶けて血管内へ移行します。

 それぞれのプロセスは異なりますが、いずれにしても、薬の成分が全身を循環して病気の治療につながる点では同じです。

 薬の種類によっては、飲み薬が作れないもの(点滴しかないもの)もあれば、飲み薬と点滴の両方のラインアップが用意されたものもあります。

 ◇病状に合うタイプを

 これらの剤型から、患者さんの病状に合うタイプを選ぶのが一般的です。

 つまり、「病気が重いから点滴治療」とは限らないのです。「昔は点滴しかなかった薬が、最近は飲み薬でも使えるようになった」というケースも、医学の歴史では多くあります。

 以上のように、患者さんの持つ治療への「印象」が、必ずしも医学的に正確とは限らない点には注意が必要なのですね。(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計20万部超。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。

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