こちら診察室 白内障A to Z

考えてほしい視力矯正手術のデメリット
~白内障手術に備えて~ 【第6回】

 白内障手術についてはすでに取り上げましたが、主に近視を治すための屈折矯正手術を受けた経験がある場合には気を付けなければならない点があります。今回はそのデメリットを具体的に説明します。眼鏡を掛けたくないからといって安易に矯正手術を受けるのは避け、将来への影響を見据えて可否を判断しましょう。

 ◇レーシックとICL

 白内障手術と屈折矯正手術の関係について話を進める前に、屈折矯正手術の代表格であるレーシックとICLに触れておきます。

 レーシックは主に近視矯正を目的とし、目の表面にある角膜をレーザーで削って光の屈折を調節します。日本では2000年ごろから普及し始め、ピーク時には年間40万件以上行われていました。しかし、09年に都内の眼科における角膜感染症の集団発生が報じられると減少に転じ、現在の手術件数はピーク時の1%程度と推測されます。

 一方、ICL手術は目の中にコンタクトレンズを入れる手法です。14年まで使用されていたレンズは虹彩切開などが必要だったものの、同年に中心部に小さな穴があるホールICLが登場。目の中に固定するだけで済むようになり、技術的課題が解決されました。それ以降は徐々に手術件数が増加し始め、現在はレーシックを大きく上回っています。

レーシック、ICL両手術の特徴

レーシック、ICL両手術の特徴

 近視矯正手術としてのレーシックとICLは本来、近視度数、角膜の厚み、前房深度などによって適応基準が決められており、厳密に言えば、個々の目の状態によってどちらの手術がより適しているか判断すべきです。にもかかわらず、インターネット上では「レーシック vs. ICL」 と題して両手術のメリットとデメリットが示されています。対立する形での説明は非常に分かりやすい一方で、誤解を生みやすいため、情報の取捨選択が非常に重要になります。

 ◇リスク踏まえ選択を

 右の表は一般的な情報で、個々の目の状況によって異なります。メリットについてはおおむね正しいとみられますが、デメリットに関しては補足が必要です。レーシックのデメリットでいつも強調されるのは、角膜を削るから元に戻せない▽コントラストが少し悪い▽ハロー・グレアが出ることがある▽白内障手術をするときに問題がある―ということです。しかしながら、レーシックの歴史は古く、長期経過が十分検証されています。現在は器械も大きく進化し、これらのデメリットはかなりの部分で改善しています(文献1)。

 一方、ICLは大きなデメリットがないかのようですが、ここには十分な注意が必要です。手術のメリットで最も強調されるのが「もし何かあれば、レンズを抜けば元通りになる」ということです。その「何か」とはなんでしょうか?

目の概略図(左)と水晶体や前房などのエックス線写真

目の概略図(左)と水晶体や前房などのエックス線写真

 ICLは虹彩と水晶体の間の小さな隙間(後房)にレンズを固定します。写真はICLの適応基準を満たす前房深度3ミリ以上の方のものですが、明らかに狭い後房の中にレンズを固定するのです。

 一般にはレンズが後房で浮いている状態になると説明されています。目の栄養状態を守るための水(房水)は後房から前房を通り、隅角という所から血液中に返っていきます。この房水循環に影響が出ると、ホールICLがなかった時代のICLで生じていたような白内障、緑内障、角膜内皮減少などが問題となります。

 仮に本当に浮いている状態が維持できているのであれば、以前のICLでもこれらの問題は起こらないはずです。そもそも現在のホールICLの構造になる前は虹彩を一部切開し、房水循環を守る必要があったのですから、長期的に浮いている状態が維持できるかには疑問が残ります。

 ホールのないICLについておよそ20年間の経過を見た報告で、約15%に白内障が発生し、眼圧は約7%上昇、角膜細胞は約20%減少したとされています(文献2)。では、ホールICLの登場ですべての問題が解決されたのでしょうか? 10年間の報告では、何かが起こる確率はとても低いようです(文献3)。ただ、明らかに角膜内皮が減少した例もあるので、さらなる報告を待たなければなりません。

 人の目は加齢とともに少しずつ変化します。その変化はおおむね40代以降に起こります。白内障を発症したり、強度近視特有の網膜疾患の経過観察が必要になったりすることもあるでしょう。その際には眼内コンタクトを抜き取る必要が出てくる可能性が高いとみられます。

 ICL手術を受けようかと考える世代はおおむね20~30代です。20年後は40~50代になります。その頃にもう一度手術を受けなければならないかもしれません。ICLのために目の中を触る手術を2回受けなければならないリスクを甘く見るべきではありません。

 レーシックとICLは決して比較するようなものではなく、自分の目に合った手法はどちらなのかという観点で決めるべきです(文献4)。両者のメリットとデメリットを踏まえ、手術するかどうか検討してください。

  • 1
  • 2

こちら診察室 白内障A to Z