治療・予防 2024/11/21 05:00
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国内に約4300万人の患者がいるとされる高血圧症。放っておけば脳血管障害(脳卒中)や心筋梗塞など脳や心臓の大病につながる。しかし、症状がある人のうち、治療を受けているのは半数ほどにとどまる。さらに、根本的に治すには生活習慣の改善が重要だが、これは患者個人のやる気や行動によるところが大きく、十分な効果は出にくい。この状況を変えるため、スマートフォンの治療アプリが登場。高血圧症の治療をサポートしている。
毎日血圧などを入力してデータを「見える化」する(提供CureApp)
◇薬と同じように処方
医療系ベンチャー企業の「CureApp(キュア・アップ)」は2022年、高血圧症治療アプリを発売。各地の医療機関で成果が上がっている。アプリの活用で医師がこれまでやりたくてもできなかった「本質的な治療」が可能になるという。
高血圧症の治療は、主に降圧薬による薬物治療と、生活習慣の改善。降圧薬は有効な半面、服用をやめると血圧は元に戻ってしまう、いわば対症療法だ。
患者は月に1度の診察で薬を渡され、医師から「毎日がんばって生活習慣を改善して」と言われる。しかし、一人ではなかなか難しい。医師も患者一人一人の生活を全て把握できるわけではない。
「そもそもの生活習慣を正す『根本治療』が必要だと感じていた。米国ではアプリを活用し実行できていたので、日本でも広めなくてはいけないと思った」と話すのは、CureApp社長で内科医の佐竹晃太氏。
このアプリは薬と同様に治験で有効性と安全性が確認され、国の薬事承認を取得。保険適用で処方される。
患者はスマホでダウンロード。処方時に指示された、起動するのに必要なパスワードを入力すると利用できるようになる。
保険が適用される半年間、さまざまなコンテンツが学べる
◇アプリ、使ってみた
どんなアプリなのか。デモ画面で体験させてもらった。
毎日入力するのは血圧と脈拍。自分で計測するか、ブルートゥース(無線通信)機能を搭載した血圧計と連携させれば、より手軽に記録できる。一日の活動を項目ごとに5段階で評価するのと、体調・ストレスの感じ方などを自由入力できる一行日記のような「振り返り」も合わせ、10分程度で終了する。
使い始めてから2週間は「教育プログラム」で高血圧症に関する知識を1日1プログラム学習する。クイズ形式でキャラクターと会話しながら進めていけるので、楽しく取り組めた。
例えば、「減塩」の項目では、調味料の使い方や何をよく食べるかなどを答えていくと、一日にどれくらい塩分を取っているのか、レベルで表示される。
みそ汁が食卓に頻繁に上がる人には「汁は一口だけ飲むようにしよう」、すしが好きな人には「しょうゆは小皿に出すのではなく、小さい霧吹きに入れてスプレーして。しょっぱさの感じ方を変えずに塩分を減らせる」といったメッセージが来る。
「カリウムを取るには両手のひらに乗る量の野菜を食べる」。通知内容は具体的で分かりやすい。本来なら医師が診察でアドバイスする内容を、アプリが代行してくれるのだ。
記者も塩分を取り過ぎていることが判明。自分では気を付けていると思っていたが、そうでもなかったようだ。
◇自分で治療プログラム決定
全14プログラムの学習後の記録データから、自分に効果があったプログラムが一目で分かる。あとは、幾つかのプログラムを重点的にこなしていけばいい。
佐竹氏は「データを見える化したことで、患者さん自身が治療方針をアプリ内で決めていける。今までの医療の現場にはなかった方法だと思う」と話す。
自分のライフスタイルに合った改善方法が見つかり、アプリからの通知に気を付けて生活していくと、日々下がる血圧が、数値で分かる。患者の「続けよう、がんばろう」というやる気の継続に一役買っている。
「アプリからの通知は具体的で『自分でもできる』と思える内容にした」と佐竹医師
◇「一緒に治療をがんばる」
「データの見える化」で、医師と患者の信頼関係の向上という効果も得られた。月に1度の診察と、次回の診察までの患者の生活が記録されるため、医師は患者のがんばりを詳しく認識できるようになり、双方が「二人三脚での治療」と思えるようになったからだ。
ある医師は「患者さんが記録を示しながら、自分のことをたくさん話してくれるようになって、びっくりしている」とうれしそうに佐竹氏に話したという。
佐竹氏は「一人で生活習慣を変えていくのはしんどい。アプリの手助けと、医師が見ていてくれているという感覚は、がんばろうという気持ちにさせる。がんばりの共有が生まれ、結果的に血の通った診察につながったのだと思う」と語る。
◇「受診したくない」にアプローチ
高血圧症の人が後を絶たない理由として①薬を飲み続けたくないから受診しない②健康診断で指摘されたが、何となく放置している③服薬しているが生活習慣を直せない―などがあるという。
アプリを利用した患者の一部を調査した結果、半年間の治療で約3割が薬の量を減らせた。
また、投薬していなかった患者の約8割が、アプリを使用した半年間、薬を飲まずに生活できた。
佐竹氏は「薬を飲まずに血圧をコントロールする新しい方法があると知ってもらえれば、治療に挑戦しようと受診する人が増えるのではないか」と期待する。
◇課題は認知不足
アプリのコンテンツや通知で提示される内容は、学会のガイドラインや食事指導の教科書、論文など確実なエビデンスに基づいていて、膨大な数がアルゴリズム(コンピューターによる計算手法)で組まれている。優秀な栄養士が、毎日横で助言してくれるような状況に等しい。
生活習慣を直しても血圧が下がらない人の原因解明にも役立っている。二次性高血圧という、ホルモンの異常や睡眠時無呼吸症候群など、生活習慣とは別の要因を特定するきっかけになるからだ。
佐竹氏は「高血圧は、健康に良くないけど死ぬわけではないと油断されている人が多いと思う。ただ、症状が進むと命に関わる深刻な状況になることは確か。治療の新しい選択肢として、患者さんにも病院にも広めていきたい」と話している。(柴崎裕加)
(2024/07/05 05:00)
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