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猛暑で白内障リスク増大
~小児期から目の保護必要~

 梅雨明け後には本格的な夏が来る。猛暑による熱中症などを警戒するのはもちろんだが、目も無防備ではいられない。多量の紫外線(UV)を浴びたり高い気温にさらされたりすると、白内障などの危険性が高まるからだ。症状が表れるのは中年以降の場合が多いものの、医療関係者は「小児期に目にUVを浴びると成人後の発症リスクとなる」(金沢医科大学の佐々木洋教授)と指摘し、子どもの頃からの対策を促している。

白内障を患った目(佐々木教授提供)

 ◇紫外線浴び続けると早期発症

 目の中にはレンズの役割を果たす水晶体という部位がある。この水晶体が濁ってしまう疾患が白内障で、視界がかすんだり、光をまぶしく感じたりし、進行すると視力が低下する。点眼薬で進行を遅らせることは可能だが、根本的な治療法は水晶体を人工のレンズに入れ替える手術しかない。

 白内障は加齢に伴って有病率が上がり、80代になればほぼすべての人がかかるとされる。日常生活に支障が出るほど目が見えづらくなり、治療を受けたという人も少なくないだろう。

 佐々木教授はUVと高温環境が目に与える影響について研究。その結果、小児期や青年期などに目に多くのUVを浴びると、比較的早い時期に白内障を発症しやすくなることが分かった。同じ沖縄県・西表島の住民(40歳以上)でも、高校まで暮らしていた人は20代以降に移住してきた人に比べ、水晶体の中央部から濁ってくる核白内障になるリスクが9倍近かったという。強いUVが降り注ぐ沖縄で育つと目へのダメージが蓄積されるためで、同教授は「成人前にUVを浴びた影響が成人後に浴びるよりリスクが大きい」と話す。

 ◇高温の影響大きく

 暑さ(熱)の影響はないのだろうか。佐々木教授は「核白内障と関係がある」と明言。水晶体に負荷をもたらす要因としてはむしろ熱の方が大きく、「発症への寄与度は熱が52%、UVが31%」と説明する。

 影響を検討する上でのポイントは「累積熱負荷」という考え方だ。研究では水晶体の温度が37度を超えると核白内障のリスク要因になると仮定。超過分の累積と発症率の関係を検証したところ、「強い相関が見られた」。

研究結果について説明する佐々木教授=2024年6月、都内

 外気温が高いと水晶体の温度も高くなる。シミュレーションでは、気温19度のときに35度だった水晶体温度は気温が40度だと37.5度に上昇するとの結果が出た。暑い地域で生まれ育った住民はそれだけリスクが大きいと言え、事実、いずれも熱帯地域にあるタンザニア、シンガポール、中国・三亜市では核白内障の有病率(60代)が著しく高い。

 水晶体の温度は他の要因にも影響される。太陽光が目に当たると0.5度上がるほか、高齢者は成人より0.3度高いという。湿度が高いと熱がこもりやすく、これも上昇要因になる。こうした点を踏まえると、温帯地域に位置する日本にとっても人ごとではない。

 熱中症で危険性4倍に

 懸念はまだある。熱中症がもたらすリスクだ。熱中症はそれ自体が恐ろしい疾患で、場合によっては死に至る。総務省消防庁のまとめでは、2023年5~9月に熱中症で救急搬送された人は9万1467人に上り、前年同期に比べ3割近く増加した。各年の気温動向によって振れはあるものの、最近はかつてより明らかに多い。死者数も同様の傾向だ。

 同疾患にかかると重症なら体温が40度以上になるケースもある。この場合、水晶体の温度も短時間ながら42度以上に上昇する可能性があり、非常に大きな熱負荷になり得る。佐々木教授らの大規模調査では、「熱中症の罹患(りかん)歴がある人の5年間の白内障発症率は非罹患者の3~4倍だった」という。もし熱中症になってしまったら、目を冷やすといった対処も考えた方がよいかもしれない。

猛暑の中、公園で水遊びをする子どもたち

 ◇効果的なサングラス・帽子の併用

 米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人が昨年実施した調査では、自分の目が健康だと自覚している期間は男性58.0歳、女性63.6歳で、ともに平均寿命より20年以上短い。良好な状態を長く保つために、UVと暑さがもたらす脅威を傍観していいわけはない。

 具体的なUV対策としては、帽子や眼鏡、サングラスなどを用いた目の保護が基本だ。同教授によると、UVカット率は帽子が20~77%、眼鏡が50~95%、サングラスで50~98%。帽子とサングラスを併用すると95~99%に達する。UVカット機能のあるコンタクトレンズも効果的で、スポーツを楽しむ際などには利便性が高そうだ。いずれも一般的な用品であり、入手は難しくない。外出時には忘れずに使用したい。

 一方で、太陽光には子どもの近視が進むのを抑える効果がある。「可視光の中で一番波長が長いバイオレットライトを浴びると、明らかに進行が遅くなる」(佐々木教授)という。骨の強化や免疫力向上に役立つビタミンDを作り出すといった利点もある。過度に恐れるのではなく、目を守りながら外で遊ばせるといった対応が妥当とみられる。

 このところ、夏になると毎年のように猛暑に見舞われ、地球温暖化をめぐる議論は国内でも盛んだ。しかし、佐々木教授は「気温上昇のリスクに対して皆さんの意識はあまり変わっておらず、健康にどんな影響を及ぼすかもあまり考えられていない。白内障は手術すれば治るが、決して若い頃の目に戻るわけではない」と、危機意識の希薄さに警鐘を鳴らしている。(平満)

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