Dr.純子のメディカルサロン

アマゾンの不思議な家族関係
虐待も不倫もないわけは?

 アマゾンの熱帯森林保護支援活動に30年以上関わり、2000日以上を先住民と共に過ごした熱帯森林保護団体(RFJ)代表の南研子さん。昨年は新型コロナ禍後に初めてアマゾンから帰国し、子ども向けの著書「アマゾンの不思議な森へようこそ」を出版しました。アマゾンの不思議な家族関係について南さんに話を伺います。

(聞き手・文 海原純子)

カヤポ族カポト村人と

 海原 著書を読ませていただきました。私たちの多くは全く想像もつかないような緊張感のある、でもわくわくするようなアマゾンの暮らしがつづられています。見たこともない動物、毒蛇や毒グモ、巨大なピラニア、サソリ、呪術師、森の精霊の話など、お金も文字もない世界が生き生きと語られていて、子どもだけでなく大人も一気に読んでしまう本だと思いました。今年の夏休みの推薦図書になったんですよね。

 南 日本では小中高生の自殺が513人(2013年)に上っています。アマゾンでは、自殺などないし、うつも認知症も寝たきりもない。子どもの自殺なんて考えられません。

 海原 子どもの自殺は4、7、10月が多いのです。背景にあるのは学業の不安、虐待やいじめなどとされています。夏休みの後に不登校になるなど問題が多いです。アマゾンでは子どものいじめや親からの虐待はないということですが。

カヤポ族の少女マイラと

 ◇いまだに分からない家族関係

 南 私は30年以上アマゾンと関わっていますが、いまだにここの家族関係は分からないんですよ(笑)。というのは、ここの家の子どもだと思っていたら1カ月後になると、別の家でご飯を食べて一緒に暮らしている。「え~、どうなってるんだろう」と。要はどこの家にいてもいいんです。「どこの子」という囲い込みはなく、「みんなの子ども」という意識です。子どもが生まれると3カ月は母親が抱きかかえて育児します。でも、それを過ぎると、村人全員が自分の子どものように赤ちゃんに接し、あやしたりします。だから小さい頃から村人全員と関わりがあるんです。

 海原 それはすごいですね。

 南 親にしても自分の子だからすべて気が合うわけじゃないですよね。中には相性が悪い親と子もあるわけです。親が虐待したくなる場合もあるかもしれない。だから、子どもが「この家は居心地が悪い」と思ったら、別の家で暮らしても問題はないんです。みんなの子どもだから。

 海原 それは選択肢があり、居場所ができて子どもにも親にもいいですね。「子どもは社会の子」という意識は日本では建前では語られますが、自分のことになるとだめなことが多い。最近は同級生の家を放課後に訪ねたり、友達の家でおやつをごちそうになったりするのも禁止という風潮があります。ところで、夫婦間のけんかは起きないんですか。

カヤポ族長老ラオーニと(2023年)

 ◇不倫は起きない

 南 それは長年、一緒にいると互いに飽きちゃうこともある(笑)。でもそんなとき、みんなで話し合う場があるんですよ。「男の家」という会議場のような場があります。そこでうちの夫婦は互いに飽きちゃったという話をすると、ほかの家でも同じようなことがあり、じゃあ、ちょっと夫婦を交換しましょうか、というようなことも起こるのです。

 とにかく、基本はうそがない、隠し事がない、ということなんです。これは他のことでも同じで、物事を決めるときすぐに多数決ということはせず、徹底的に話し合う。時には大げんかになることもあります。でも、とことん話し合うので反対意見の人も自分の意見を抑え込まず「全部伝えた」という満足感があるし、賛成意見の人も反対する人がなぜ反対なのかの理由を理解できます。ですから後腐れがない。

 海原 忖度(そんたく)やうそがないというのは素晴らしいですね。日本社会のストレス要因は、嫌でも我慢して自分の気持ちを表現できないことが根底にあります。しかし、互いに飽きたことの解決策は斬新というか、不倫防止策というか、びっくりです。

 ところで、いじめや差別がないというのは理由があるのでしょうか。日本だと、みんなと同じではないということ、孤立したり、いじめられたりすることが問題になっています。

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