治療・予防 2024/12/18 05:00
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肝臓は「沈黙の臓器」といわれる。「肝臓の調子がおかしいのかな」と感じるような自覚症状が出た時には手遅れで、慢性肝炎だったり、そこから肝硬変へ、さらに肝がんへと進んだりすることもある。国立がん研究センター中央病院肝胆膵(かんたんすい)内科の奥坂拓志科長は「ウイルス性の肝がんが減少している中で、アルコールや肥満、糖尿病などの生活習慣病が大きなリスクとなっている」と話す。
アストラゼネカ肝がんメディアセミナー資料より
◇成人の3人に1人が脂肪肝
肝がんは肝臓そのものから発生した原発性と他の臓器から転移した転移性に分類される。原発性肝がんの約90%が肝細胞がんで、脂肪肝や肝硬変などの慢性肝疾患を伴っていることが多い。正常な肝臓が波打つような状態になったのが慢性肝炎で、肝硬変に進むとぼこぼこした状態となり、一部が肝がんへと移行する。
2009~11年の全国の診断例を基にしたがん研究センターの集計によると、部位別に見たがんの5年相対生存率は甲状腺の94.7%、皮膚の94.6%に対し、肝臓は35.8%で大きな差がある。
肝がんのリスクである脂肪肝の患者は推定3000万人とされ、成人の3人に1人が罹患(りかん)しているという報告がある。日本肝臓学会によれば、検診受診者の20~30%は脂肪肝を伴っており、その頻度は増加傾向にある。アルコールが原因ではない脂肪性肝疾患の有病率は男性30~40%、女性10~20%。肥満と糖尿病では有病率が高く、高度肥満で90%以上、糖尿病では約50%を占めるという。
◇ALT値に注意を
肝がんの予防にはどうすればよいのだろうか。危険信号として注意したいのは健康診断や人間ドックの結果で示される肝臓の数値で、ALT、AST、γGTPがある。ALTとASTは肝細胞内の酵素で、肝細胞が傷つくと血液中に漏れ出す。特にALTは他の臓器にあまり含まれていないため、数値の高さは肝臓の障害を反映する。奥坂科長は「基準となるALT値は30で、これ以上の場合は早めに医療機関を受診してほしい」と強調する。エコー検査によって確認したい。
非B非Ⅽ型肝炎患者におけるリスク要因=小池和彦(日本内科学会雑誌、2019)
◇暴飲暴食をやめる
奥坂科長によれば、肝がんを巡る状況は変わってきた。肝細胞がんはかつて、ウイルス性のB型肝炎とⅭ型肝炎によるものが9割以上を占めていたが、減少してきた。肝炎ウイルス検査率の向上や有効な治療薬などによるところが大きい。一方、「非B非C型」の肝がんは増加傾向にある。背景には、アルコール性(飲酒)、肥満や糖尿病などの生活習慣病があると考えられている。
飲酒量が多いほど、飲酒期間が長いほどアルコール性肝疾患を引き起こす。飲酒の常習者の90%で脂肪肝が認められ、飲酒を続けた場合、そのうちの10~20%が肝炎へと進んでしまう。さらに長期に大量の飲酒を続けると、肝硬変、肝がんへと移行してしまう。
非アルコール性の肝疾患も肝細胞がんの原因となり、進行しない脂肪肝と進行性の脂肪肝炎に分類される。罹患率はBMIの上昇に伴い増加すると報告され、メタボリックシンドロームとの関連が指摘されている。
奥坂科長は「肝臓の状態が悪いと、良い治療法があっても行えない。暴飲暴食、食べ過ぎとアルコールの過剰飲酒をやめれば、肝臓の状態は回復しやすい。このことを分かってほしい」と強調する。
◇患者の体調変化、すぐに連絡を
肝臓の状況とがんのステージによって治療法は変わる。治療薬には、分子のレベルでがん細胞を攻撃する分子標的薬、免疫を駆使してがん細胞をたたく免疫チェックポイント阻害薬などがある。ただ、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬もさまざまな副作用を伴う。「これをどういうふうにマネジメントするのか。これが大きな課題だ」と、奥坂科長は言う。
肝がんの患者は体調が変化し、命に関わるケースもある。なかなか医師にそれを伝えることは難しい面がある。
同病院薬剤部の寺田公介氏は「薬剤の服薬指導で長い時間、患者に向き合う薬剤師や看護師、事務担当職員でもよいから、連絡してほしい」と言う。
同病院は専用窓口も設置。「風邪を引いたけど、薬を飲んでもよいですか」
「大丈夫です」と応じる時もある。患者の状態を聞き、「早く受診してください」とアドバイスする場合もあるという。(鈴木豊)
(2024/08/09 05:00)
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