一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏
(第13回) 大学教授に就任 =マイナスからのスタート
着任初日に天野氏は緊急手術の執刀をしたが、手術後、患者の下半身にまひが出るトラブルにも見舞われた。その後、患者は回復して普通に歩けるようになったが、病院内の一部医師からは「管理不行き届きだ」との声も上がった。
医学部教授の仕事は、臨床、教育、研究の3本柱で成り立っているため、学位論文のチェックや山のような書類の決裁、会議に多くの時間が費やされる。手術の腕を期待されてきたのに、それが思うように発揮できないことがもどかしかった。
「2カ月やってみて、もうこれは無理だと思いました。病院長に相談すると『お前は会議に出るより手術をやっていた方が病院のためになる』と言ってくれたおかげで、再び手術に集中する生活に戻ることができました」
良好な手術成績を積み重ねていけば、紹介される患者は増え、手術数も増加して病院の収益は上がる。4年後には心臓血管外科の年間手術数は500例を超え、全国の大学病院の中でトップとなった。大学は天野氏の着任以降、臨床での結果をきちんと示せる外科医を教授として迎える傾向が強まり、病院の収支も大きく好転、借金は完済して収支は黒字になった。
「結果を出していくうちに、周囲がどんどん味方になってくれるようになりました。『順天堂は患者がすべて。患者で結果を出していれば絶対に何とかなる』とアドバイスしてくれた先輩がいましたが、その通りになりました」
(ジャーナリスト・中山あゆみ)
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(2017/02/13 11:56)