一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏
(第14回) 若手育成は礼儀から =褒めずにチャンスを
医師の技術レベルに応じ、天野氏が一緒に入って指導しながら進めていくこともあれば、指導医に任せる場合もある。亀田総合病院時代、14歳年上の上司に果敢に挑んでいった天野氏だが、逆に今、部下を育てる立場になってどう思うのだろう。
「僕に挑んでくるような若者がいたら、受け入れますね。自分と同じだけの努力をして近づいてくるヤツがいたら、自分ももうちょっと頑張って背中を見せてやらないといけないな、と思うから。あの頃の自分のような若者が出てこないか期待して待っているんだけど、なかなかそういう人が現れなくて」
教授を先頭に部下が大名行列のように、後をついて行く教授回診は5年目でやめた。
「僕が先頭切って回診すると、患者さんのことを全部解決しちゃうから、若い連中は何でも僕が何とかしてくれると思ってしまうでしょう。僕がやらない方が医局員のためになると思いました。『大学教授は一番偉い』って満足する人もいるけど、それでは『医龍』の野口教授と同じだから」
天野氏は2006年から14年までフジテレビで放映されたドラマ『医龍』の医学監修をしている。その中で、俳優の岸部一徳が演じる大学付属病院の胸部心臓外科教授、野口賢雄は、自らの利益のみを追求する悪徳医師として描かれている。
天野氏の知り合いをはじめVIPクラスの患者が入院した時も、回診は部下に任せる。
「僕が30代の頃、いろいろな患者さんとお話しさせてもらったことが自分の人間形成に生かされていると思うから。それをずっと定年まで独り占めするより、早い段階で若い連中に分け与えてあげた方がいいだろうという思いです。患者さんも僕が忙しいのを知っていますから、それでいいと言ってくれています」
義理やメンツではなく、今、何をすべきかをシンプルに考えた結果である。
(ジャーナリスト・中山あゆみ)
→〔第15回へ進む〕大震災もひるまず執刀=悔悟の念、吹っ切る契機に
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(2017/02/20 12:38)