一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第13回)手術失敗も「放映を」=1年後、確認できた奇跡

 上山氏の手術は、テレビ番組のスーパードクターの特集で何度となく紹介された。そんな中、テレビ局が取材したものの、すぐに放映されずに一時「お蔵入り」になった症例があった。手術が予想通りの結果にならず、術後、半身まひが残ってしまったケースだ。

 「テレビは僕をスーパードクターとして取り上げるのに、失敗例を出したら都合が悪いと思ったのかもしれない。僕はあの症例を出さないなら、今後一切、テレビには出ないと言いました」

 患者は15歳の女子高校生。学校でふざけて頭を打った時、念のために受けた検査で30ミリの巨大脳動脈瘤(りゅう)が見つかった。破裂すれば命はない。リスクが高く手術も受けられない。学校にも行かれず戦々恐々とする中で、父親が上山氏を見つけ、旭川赤十字病院で手術を受けることになった。

 「動脈瘤が破れたら大出血を起こして確実に死ぬ。何があっても譲れない戦いになる。脳外科医としてのこれまでの経験のすべてをかけて頑張ります、と言って手術しました」

 通常、脳動脈瘤の手術は動脈瘤の根元にクリップをかけて、血流を遮断するのだが、このケースでは動脈瘤が大きすぎて、血流を遮断すると、脳梗塞を起こす危険性があった。そこで、上山氏は脳の別の部位にある血流の豊富な血管を採取し、それでバイパスを作って血流を確保してから動脈瘤への血流を遮断する方法を取った。

 しかし実際に開頭してみると、脳動脈瘤から細い血管が派生していることが分かった。この血流が途絶えると、右半身にまひが出る可能性がある。動脈瘤への血流を遮断したことで、脳波はフラットに。上山氏は、この細い血管にもバイパス手術を行い、0.2ミリの血管を必死につないだ。血流が途絶えても大丈夫な時間は20分。しかし、1時間が経過してしまった。その結果、少女には右半身にまひが出てしまった。

  • 1
  • 2

一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏