「医」の最前線 「がん専門医」の「がん手術」体験記

麻酔切れると激痛
「がん専門医」中川恵一氏の体験記〔2〕

 がん治療専門医の私が膀胱(ぼうこう)がんになりました。自身によるエコー検査が早期発見につながったのです。ただ、一般の方にはこのような検査は不可能ですし、膀胱がんは発生の頻度が低いためがん検診の項目にも含まれません。しかし、あえて言うのは、自分でできることはすべてするべきだ、という教訓にはなるからです。

下半身麻酔で、患者自身も手術状態をモニターで見られる内視鏡手術

下半身麻酔で、患者自身も手術状態をモニターで見られる内視鏡手術

 かつて、昭和天皇の膵臓(すいぞう)がんの手術を担当した大腸がん専門医の先輩に、定期的に自分の指で直腸を触って違和感がないかなどを確かめる「直腸指診」をするようにアドバイスされたことがあります。私も「そこまでは」と尻込みしました。ただ、女性であれば、乳がんのセルフチェックくらいは取り組んでもらいたいと思います。

 実際の膀胱がんの治療経緯を紹介しましょう。2018年12月27日に東大病院に入院し、28日に内視鏡手術を受けました。下半身麻酔でしたから、電気メスによる切除の様子もモニター画面で見ることができました。幸い、40分という短時間で完全に取りきれました。再発予防を目的に、膀胱内への抗がん剤の注入も受けました。

 ◇緩和ケアの大切さ実感

 麻酔が切れると下腹部に激しい痛みを感じましたが、痛み止めの処方をお願いして楽になりました。この治療を受ける全員に痛み止めの処方が必要だと思います。痛みを我慢して良いことは全くありませんし、症状は本人にしか分かりません。遠慮は不要です。

 私は東大病院の放射線治療の責任者ですが、03年から14年まで、緩和ケア診療部長を兼任してきましたから、緩和ケアのプロでもあります。しかし、実際に自分が患者にならないと分からないこともあります。今回のことで、早期がんでも緩和ケアが大切だと身に染みました。

膀胱がんの内視鏡手術の仕組み=中川恵一氏提供

膀胱がんの内視鏡手術の仕組み=中川恵一氏提供

 18年末に報道された調査でも、がん患者の4割が亡くなる前の1カ月間に身体的な苦痛を感じていることが明らかになりました。わが国の緩和ケアはまだまだ発展途上ですが、緩和ケアは終末期だけに必要なのではありません。実際に手術を受けた患者のほとんどが「術後の痛みはつらかった」と言います。患者は医療者につらさをきちんと伝えることと同時に、医師の側も患者の訴えに耳を傾ける必要があるでしょう。

 ◇自身のカルテ見る

 さて、私の場合は4泊の入院で、大みそかに退院できました。しかし、膀胱がんは再発しやすいがんの一つですから、今後は長期間、定期的なフォローアップのための診察を受けることになります。がんは臓器のもっとも表面の「上皮」から発生して、外側に広がっていきます。私の場合、カリフラワー状の「表在性がん」でしたから、内視鏡切除が可能でした。

 東大病院の医師が患者になった場合、パスワードをかけてカルテの閲覧を制限することが多いのですが、私の場合は誰でも自由に見ることができようにしてあります。私自身も入院中、職場の自室でカルテを見ていました。ショックだったのは病理診断の報告書を見た時です。

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