「医」の最前線 新専門医制度について考える

皮膚科医不足の知られざる事情
~女性医師7割で起きている偏在~ 第14回

 皮膚疾患は直接命に関わることは少ないとはいえ、かゆみや痛み、外見上の問題を伴い、耐え難い苦痛や集中力の低下、睡眠障害など生活の質を大きく損なう。医師1人当たりの患者数が最も多く、女性医師にも人気の高い皮膚科だが、医師不足、指導医不足の苦境に立たされているという。皮膚科専門医制度委員会委員長の石河晃医師(東邦大学皮膚科教授)に皮膚科医療の現状や皮膚科医偏在の問題について聞いた。

石河晃医師

 ◇新薬登場で大きな潮目を迎えたアトピー治療

 近年、皮膚科の受診が急増しているのはアトピー性皮膚炎です。2008年に約35万人だった患者数が17年の厚労省の調査では約51万人となっています。軽い人を含めると、実際には数えきれないぐらいの数の患者さんが存在すると思われます。

 アトピー性皮膚炎の原因は人によってさまざまです。ステロイドの外用薬と保湿外用剤によるスキンケアといった従来の治療で9割の患者さんは治りますが、重症化すると治りづらいのが特徴です。18年に10年ぶりの新薬として発売された生物学的製剤デュピルマブ(商品名デュピクセント)は難治性の重症者に高い効果を示し、大きなインパクトを与えました。それ以降、新薬が次々と登場し、アトピー性皮膚炎治療の新たな展開に期待が高まっています。

 ◇高齢化で増加中の皮膚がん

 高齢化によって増えているのが悪性腫瘍、いわゆる皮膚がんです。皮膚がんは「ホクロのがん」と言われている悪性黒色腫(メラノーマ)が有名ですが、転移することなく適切な治療で根治するものや、進行が早く、転移しやすいものなどさまざまです。皮膚の腫瘍は症状が目に見えるため、悪性であっても早期発見・早期治療により、多くの場合は完治が可能です。患部を診て悪性かどうかを見極められるのが皮膚科専門医です。日本皮膚科学会では、さらに専門性の高い皮膚悪性腫瘍指導専門医の認定を行い、ホームページ上で公表しています。

 ◇5年間で皮膚科全般の知識と技術を習得

 内科専門医の場合は基本領域を3年学び、その後3年かけて消化器や循環器などのサブスペシャル領域を学びます。皮膚科の場合は皮膚科自体が十分専門性が高いため、5年かけて内科の基本領域+サブスペシャル領域と同等レベルの専門研修を行います。専門研修プログラムは皮膚疾患における一通りの診断、治療が行えるだけの高い診療技術が身に付けられるよう設計されています。5年ごとの更新時には皮膚科診療の専従者であることと、講習受講が義務付けられています。

 ◇発疹が出たらまず皮膚科専門医を受診

 患者さんの中には皮膚のトラブルが内臓からきていると考え、内科を受診される方もいらっしゃいますが、皮膚疾患が内臓と関係があるかを正しく見極められるのは皮膚科専門医です。帯状疱疹風疹やはしかなど、発疹が出たら最初に皮膚科を受診し、正しい診断と適切な治療を受け、必要に応じて適切な診療科の紹介を受けてください。受診の際、内科・皮膚科、外科・皮膚科といった複数の診療科が掲げられているクリニックには皮膚科専門医が不在の可能性がありますので、事前に確認することをお勧めします。

 ◇近い将来、皮膚科医が過剰になる?

 19年に厚生労働省が算出した「診療科ごとの将来必要な医師数」で、皮膚科医は近い将来過剰になるという結果が示されました。同年、日本皮膚科学会の会員を対象に勤務実態を調査したところ、逆に不足しているという認識が高まりました。地域によっては、近隣に皮膚科常勤医がいる病院が無いために1人で1日200人以上もの診察を行い、悲鳴を上げている開業医も少なくありません。医師全体の総数がこれだけ増えているにもかかわらず、皮膚科の勤務医の数は10年前とほとんど変わっていないのです。

 新専門医制度では医師の偏在解消を目的として、必要医師数を元に診療科と地域にシーリング(人数制限)を掛けました。これにより、皮膚科を志望しても都市部の研修病院で採用されないケースが続出し、結果として皮膚科の専攻医の減少につながっています。それ以降、皮膚科医の総数は横ばいとなり、決して増えているわけではありません。

出典:日本皮膚科学会キャリア支援事業HP「全国勤務状況調査からみる皮膚科の未来 」

 ◇勤務医不足により医療体制崩壊の危機

 皮膚科は地域医療を開業医が担い、重症患者を病院で診るというバックアップ体制ができあがっています。ただ、他の診療科に比べて開業しやすいこともあり、半数以上が開業医です。最近では専門医資格を取得後、すぐに開業する医師も増えています。

 皮膚科は女性医師が多く、全年代を通しても5割、30歳以下においては7割を超えています。独自調査によると、女性医師は出産、育児などのライフイベントに直面する入職後5年から10年以内に、高い割合で離職やパートタイム、時短勤務に転向しています。さらに高齢となった他科の開業医やトレーニングを受けていない美容医療医が安易に皮膚科医を名乗ることも往々にしてあります。

 皮膚科医の必要数の算出には、これらの医師が全て1人としてカウントされ、その数でシーリングが掛かると、結果として病院の勤務医の数が削られていくのです。現在、地方の大病院であっても1人医長というところは珍しくありません。このまま勤務医不足が進行すると、病院での重症患者の受け入れが難しくなり、地域医療のバックアップ体制が維持できなくなってしまいます。

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