「医」の最前線 新専門医制度について考える

皮膚科医不足の知られざる事情
~女性医師7割で起きている偏在~ 第14回


 ◇教育の場に偏在対策を持ち込むことの疑問

 大都市には大学病院のような大規模な医療機関が集中しています。それらの施設では、その地域の患者さんを診るだけではなく、専門医や指導医を養成するための教育機関としての重要な役割を担っています。都市部の病院で研修を受け、2~3割の医師は地方の医療機関に移って勤務します。従って、専門医取得前の医師は都市部に集中していますが、専門医取得後の医師はそれほど偏在していません。

 医師の偏在問題は、本来、専門医資格を取得した医師を適切に配置するために対策を講ずるべきであり、偏在解消を教育の場に持ち込んで、専攻医に対してシーリングを掛けて調整を行うところに問題があるのではないでしょうか。シーリングによって都市部の研修施設の人員不足を招き、教育者や指導者の育成が困難な状況に陥ってはならないと思います。

 ◇女性の働き方を理解し、受け入れられる体制を

 以前、皮膚科専攻医を対象にした調査で、「将来、どんな働き方をしたいか」という質問に対して、「組織や時間に縛られず、自由な働き方がしたい」という回答が一番多く、衝撃を受けました。今の時代、女性が出産、育児をしながら自分の働けるときだけ働いて、家庭と両立させるという考え方には異論はありません。ただ、地域ごとに医師の数が決められている現状のシステムの中で、フリーな立場の医師も1人分としてカウントされ、常勤勤務医の数が削られて彼らに負担を強いることに問題があります。時短勤務の医師であっても数がそろえば十分戦力になります。人数制限を掛けるにしても必要最小限の常勤勤務医が確保できるよう、検討していただきたいところです。専門医研修期間中にもワークシェアリングをしやすくするようなシーリング緩和策が必要だと思います。

 ◇男女比は1:1が理想

 男性医師の減少も問題の一つです。現在、皮膚科に新しく入局する女性が男性の数を上回り、2~3人のスタッフ全員が女性という施設も増えてきました。皮膚科は皮膚を露出させて診察する必要があり、男性患者に対しては男性医師がいることも大切なのです。また、女性医師が研修修了後に医学部の教員や病院の部長職に進まない傾向も強く、女性が多い診療領域にもかかわらず、大学病院に残されたのは男ばかりといった「ゆがみ」も生じます。どんな組織でもバランスが大切で、皮膚科の場合の男女比は1:1が理想的です。男性医師も増やし、バランスを維持していきたいと考えています。

 ◇キャリア支援によるモチベーションアップ

 09年に日本皮膚科学会の女性医師が中心となり「皮膚科の女性医師を考える会」を発足させ、調査や支援に向けた取り組みを始めました。現在は「キャリア支援委員会」と名称を変更し、メンター&メンティー相談会、リーダー養成のためのワークショップやサマースクールなど、男性を含む若い医師へのさまざまな学びの場を提供し、モチベーションアップや働く環境の整備を促す活動を精力的に行っています。

 皮膚科は皮膚という臓器を扱う総合診療科です。内科的なものの考え方、外科的な手術手技、病理学の診断能力が備わり、病気を肉眼で見て診断候補を挙げ、検査を進めて診断し、薬物治療から外科的治療まで皮膚疾患を最後まで面倒みられる醍醐味(だいごみ)があります。若い先生方には未知の世界が広がっている皮膚科医療の面白さを、ぜひ体感していただきたいと思います。

 ◇優れた皮膚科医とは

 皮膚科は外来患者数が多いため、1日200人の患者さんを1分で診療する医師もいれば、時間をかけてじっくりと診る医師もいます。専門医であっても優秀かどうかの第三者評価やデータ化はできません。言えることは、患者のニーズを過不足なく受け取り、それに対して解決策をしっかり提示してくれる医師が優れた医師であり、患者さん自身が感じ取って決めることだと思います。患者さんからのアプローチとしては口コミに頼らざるを得ないかもしれませんが、SNSは信ぴょう性が問題です。慢性疾患であれば、患者会にアクセスすれば有益な情報が得られるかもしれません。(了)

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