こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
国際基準に基づくファシリティドッグの事業づくり 【第7回】研究員の村田夏子さん
認定NPO法人シャイン・オン・キッズでファシリティドッグプログラムの学術発信プロジェクトを担当している村田です。医療現場で働くファシリティドッグには、一般的な動物介在活動とは異なる厳格な基準と高い専門性が求められます。特に、当法人が取り組む小児がんや重い病気の子どもたちのケアに関わるためには、医療安全と動物福祉の両立が欠かせません。

休日にドッグランで思い切り遊ぶタイ(左:静岡県立こども病院)とマサ(右:国立成育医療研究センター)
◇世界に広がるファシリティドッグと求められる基準
現在、補助犬育成団体の国際的な統轄組織アシスタンス・ドッグス・インターナショナル(ADI)に認定されている世界82の育成団体でトレーニングされた2131頭のファシリティドッグが活動しています*1。なお、「ファシリティドッグ」という名称は、2000年頃から使われ始めているようです。
当法人では10年の静岡県立こども病院を皮切りに現在4病院まで導入が進んでいます。動物介在療法そのものは世界で長い歴史がありますが、ファシリティドッグの活動は新しい取り組みのため、複数の国際基準を参照し補完しながら、包括的な安全体制を構築し、持続可能な事業運営を目指しています。
その一つが、ADIによるガイドラインです。ADIでは、ファシリティドッグとそのハンドラーに対して、盲導犬や介助犬と同レベルの高度なトレーニングを求めており、当法人もその基準に沿って育成します*3。また、米国医療疫学学会(SHEA)により15年に示された、医療施設内での動物の受け入れに関する患者と医療従事者の安全を最優先に考えた感染予防・管理措置を前提としています。猫や馬など他の動物も、病院以外の動物介在活動の場では活躍し親しまれていますが、医療施設においてはアレルゲンの増加、ひっかき傷など、潜在的なリスクをできるだけ減らすために、推奨されていません。医療安全の観点から慎重な判断の下、専門的なトレーニングを積んだ犬による活動が行われています。
◇安全な運営を支える3つの柱
こうした背景を踏まえて重視しているのが下記の3点です。
<ハンドラーの選定と育成>
これまで当法人では、5年以上の臨床経験を持つ医療従事者を採用してきました。その上で、80時間以上の専門的な研修プログラムを履修し、約6カ月の実地研修期間を経てハンドラー研修課程が修了します。研修の内容は、ADI初代会長のボニー・バーゲン博士が作成し、各国の補助犬育成団体で教材に活用されている標準カリキュラムに基づいています。
ハンドラーには、動物福祉上のポイントも求められます。対象となる患者だけでなく、犬にもいい影響が大切です(第3回参照)。SHEAでも「動物のボディーランゲージを読み取ること」「ストレスなどの兆候を早めに読み取って回避すること」などが動物の力を活用する上での原則として示されており、研修ではこれらについて、座学と実習で繰り返し学びます。
さらに独自の取り組みとして、10年以上のキャリアを持つ現役ハンドラーが、導入前のファシリティドッグとハンドラーの実務研修にも監修で立ち会います。実際の経験を基に子どもとの関わり方や効果的な介入方法を伝え、安全な活動の質を保つためです。
勤務開始後も、定期的にフォローアップを行うほか、一時預かりボランティアの協力による休養の確保など、労務管理を行います。
<医療機関との綿密な連携体制の構築>
感染対策は病院ごとに指針が異なるため、導入前には院内のワーキンググループと協働し、個々の状況に則した運営感染対策マニュアルを作成します。電子カルテの権限設定やPHS(簡易型携帯電話)確保、専用控室や屋外排泄場所、屋内駐車場の確保など、ハンドラーとファシリティドッグ双方の活動のために必要なソフト・ハード両面での環境整備を行います。
中でも、専用控室の整備はハードルが高くなりがちですが、落ち着ける空間で質の高い休息を確保することは重要な取り組みです。十分な休息を得ることで、ファシリティドッグは一人一人との関わりに集中し、求められるサポートを持続的に提供することができます。
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(2025/02/07 05:00)