他人に注意を向ける
~認知行動療法であがり性克服(千葉大学医学部付属病院 清水栄司・認知行動療法センター長)~
人前で極度に緊張しやすい性質を、あがり性と呼ぶ。病気ではないが、気にし過ぎればさらに緊張が高まる悪循環に陥り、社交不安症に発展しかねない。緊張を和らげるには認知行動療法が有効で、社交不安症の予防にも役立つという。
「社交不安症に対しては、薬物療法よりも認知行動療法が効果的だというデータもあります。予防のためにも、方法を学んでおくといいでしょう」と千葉大学医学部付属病院(千葉市中央区)認知行動療法センターの清水栄司センター長は話す。

あがり性は、自分がどう見られているかに注意が向いてしまう
◇見られるから不安
一般的に、人前で何かを発表するような場合に手や声の震え、赤面、動悸(どうき)などを感じることから、自身があがり性だと意識する人が多い。社交不安症と同一視されがちだが「あがり性は病気ではありません。年に1回あるかどうかという、大勢の前に立つ特別な場面で問題になる程度です」。
これに対し、社交不安症は「心の病気で、日常生活における人との交流でさえ、非常に強い不安や恐怖を毎日ずっと感じ続けます。つらさが半年以上続くため、日常生活にも大きな支障(機能障害)が出ます」。学校や職場を休む、会食を避けるなどが機能障害に当たる。
「重要な人物が来客してお茶を出す際に、手が震えてこぼすのを恐れる」「人前で氏名を記帳する際に手が震える」などは、あがり性で見られる。社交不安症と共通しているのは視線に対する恐怖で、「他の人から見られるのが怖いという感情が、あがり性にも社交不安症にも基本にあります」。
◇思い込みに気付く
あがり性や社交不安症の人には、繊細で物事に対して過敏な神経質(神経症傾向)の人が多いという。このため「不安から自分がどう見られているかという点に過度に注意が向いてしまい、他の人を見ることができない傾向があります。まずそれに気付いてもらい、外部に注意を向ける練習をすると不安は減ります」。
例えば、話し相手の髪の色、眼鏡の有無、着衣の色や形、体格などについて観察する。繰り返すうちに、自分ではなく相手に注意を向ける習慣が身に付き、人前で発表するような場面でも下を向かずに人を見られるようになる。人を見るようになると、自分に注意を向けていない人が多く、みんなが見ていると感じていたのは思い込みだったと気付く。「見られている側にいる時は不安でも、自分が見ている側になれば、さほど不安は感じなくなります」
同センターでは他にも考え方や行動の偏りを改善するためにさまざまな手法の認知行動療法を用いる。「あがり性で精神科にかかることにはちゅうちょするかもしれませんが、病気かどうかを含めて相談してみてください。認知行動療法について本などを通して知ることも有効でしょう」と清水センター長はアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/03/19 05:00)
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