こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
国際基準に基づくファシリティドッグの事業づくり 【第7回】研究員の村田夏子さん
<専門家によるアドバイザリーボードとの協働体制の構築>

アドバイザリーボードで議論に臨むメンバー*5
2010年のプログラム開始以来、20年以上にわたり補助犬を送り出してきたADI認定団体のアシスタンスドッグス・オブ・ハワイ(ADH)から、基礎トレーニングを修了した犬を迎えてきました。
しかし、導入を求める声の高まりに応じるため、19年から国内での育成事業に着手。ADHの手法を踏襲しつつ日本の現状に合わせた適切な仕組みづくりのため、アドバイザリーボードを設置しました。このような倫理委員会に当たる組織は、人と動物の関係に関する国際組織(IAHAIO)の白書*6でも推奨されています。当法人では4人の専門家にご協力いただき、年2回の定例会議で新興感染症対策や人獣共通感染症の防疫など、最新の知見に基づく助言を得ています。
なお育成に際しては、補助犬の輩出に実績のある海外のブリーダーから子犬を譲り受けています。犬種は、盲導犬や介助犬など、補助犬の歴史の中で育種選抜が行われてきたラブラドルレトリバー、ゴールデンレトリバーとその交雑種が多いのが特徴です。
事業運営を進める中で発生したのが、20年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でした。医療現場が逼迫(ひっぱく)する中、ハンドラーが臨床経験を生かして情報収集をする一方、アドバイザリーボードに相談の上、医療現場への負担増を最小限に抑えた対策を行いました。当初はヒトーイヌ間の伝播(でんぱ)についても未知だったため、ハンドラーが感染者となった場合どうするかや、犬の安全確保のための一時預かり規定を策定。ハンドラーと感染対策室の日頃からの連携の成果もあり、慎重を期しながら調整を進めることができました。
こうした対応により、初回の緊急事態宣言の発出期間(20年4~5月)にも活動を継続することができました。また、21年7月からの国立成育医療研究センターへの新規導入も、多くの方々の粘り強いご協力の上に進められました。刻々と変化する状況下で、試行錯誤と葛藤の日々でしたが、導入病院の看護部長から掛けられた「こんな時だからこそ続けてほしい」の一言は今でも深く印象に残っています。
◇持続可能な事業運営を目指して
ファシリティドッグの動物介在療法の効果に関する研究にも取り組んでいます。23年には、静岡県立こども病院、関西大学との共同研究から、ファシリティドッグは入院中の子どもたちの終末期の緩和ケアの一助になったり、子どもたちが前向きに治療に取り組むことを促したりする効果があると、ケアに関わる医療者が評価していることを明らかにし、国際学術誌に発表しました*7。
このように、ファシリティドッグがその力をより発揮できる場面を明確化することは、優先的に介入できる仕組みの確立につながります。犬の福祉を最優先に置き、限られた活動時間を最大限に使い、患者への効果を上げるためにも、研究成果を生かしていきたいと考えています。
当法人が行う国際基準に基づいた体制づくりは、入院中の子どもたちのため、医療チームの一員として活動するファシリティドッグとそのハンドラーが、持続的に安全なケアを提供するために不可欠な基盤です。そのためにも重要なのは、ファシリティドッグである以前に、心身共に健やかな1頭の犬であること。その実現のために、今後も研究と実践を重ねていきたいと考えています。(了)

村田夏子さん
村田夏子(むらた・なつこ) 研究員・学術発信プロジェクト担当、農学博士。08年麻布大学獣医学部動物応用科学科卒、13年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。14年お茶の水女子大学特任リサーチフェローとして、認定NPO法人シャイン・オン・キッズで長期インターンシップに従事し、同年にシャイン・オン・キッズ入職。ビーズ・オブ・カレッジ事業等を経て、現在はファシリティドッグの新規病院への導入や、内外専門家との連携・研究を担当。
*1 Membership Statistics: Assistance Dogs International.
Available from:
https://assistancedogsinternational.org/members/adi-member-organization-statistics/
*2 History: Courthouse Dogs Foundation. Available from:
https://courthousedogs.org/about-us/history/
*3 ADI Terms & Definitions: Assistance Dogs International. Available from:
https://assistancedogsinternational.org/resources/adi-terms-definitions/
*4 Murthy,R.,Bearman,G.,Brown,S.,Bryant,K.,Chinn,R.,Hewlett, A.,...&Weber,
D. J. (2015).Animals in healthcare facilities:recommendations to minimize potential risks.infection control & hospital epidemiology,36(5),495-516.
*5 久世明香氏(麻布大学)、山本真理子氏(帝京科学大学)、西村亮平氏(東京大学)、高柳友子氏(日本介助犬協会)
*6 Jegatheesan B. IAHAIO White Paper:International Association of Human-Animal Interaction Organizations; 2014. Available from:https://iahaio.org/wp/wp-content/uploads/2021/01/iahaio-white-paper-2018-english.pdf.
*7 Murata-Kobayashi,N.,Suzuki,K.,Morita,Y.,Minobe,H.,Mizumoto,A.,&Seto,S.(2023)Exploring the benefits of full-time hospital facility dogs working with nurse handlers in a children's hospital.Plos one,18(5),e0285768.
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(2025/02/07 05:00)
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