ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界
親から子へそっくり遺伝
~強弱の度合いも変わらず~ 【第5回】
◇後天的に変化?
今回、まー君のことを記事に書くきっかけになった一言があります。まー君との会話の中で「パイロットランプの発光ダイオード(LED)の赤と緑は本当に分からない」と私が言ったところ、「いや、俺は分かる」と返事が返ってきました。同じ遺伝子を受け継いだ2人。それなのに見え方、感じ方に差がある。互いに色覚特性の自覚はあるのに片方は判別がつき、もう一方はつかない。いったい何が起きたのでしょうか。
可能性としては3パターン考えられます。一つ目は診断ミス。実のところ、私は色盲でなく色弱だったということです。しかし、いろいろな検査で色濃く出るⅡ型2色覚の自覚反応からすると、色弱であったとしても強度に相当するはずです。加えて、私もまー君も祖父から同じ遺伝子を受け継いだため、個人差が出るはずがありません。そう考えるとこの線はなさそうです。
二つ目は私とまー君が違う遺伝子を持っている可能性です。母に異母兄弟がいるとは聞いていません。それでも、母方の祖母が色覚特性者もしくはキャリアーだった場合には起こり得ます。女性の色覚特性者はほぼいないことを考え、祖母がキャリアーだった場合の家系図に書き換えてみましょう。左のイラストのようになります。祖母が持っているX'をX'ⓐ、祖父のX'をX'ⓑとします。祖父が色盲だったことを考えると私はほぼ確実にX'ⓑを持っているため、私は「X'ⓑY」、母は「X'ⓐX'ⓑ」または「XX'ⓑ」になるはずです。一方、私の兄は色覚特性を持っていません。母が「X'ⓐX'ⓑ」だった場合は兄も確実に「X'ⓐY」か「X'ⓑY」となって色覚特性が出るので、母の「XX'ⓑ」は確定です。
少し横道にそれますが、母が「X'ⓐX'ⓑ」だった場合は自覚していると思われそうですが、実はそうでもありません。第1話でお話した色覚の種類、Ⅰ型とⅡ型を覚えていますか。I型は赤が苦手で緑は得意、Ⅱ型は逆に緑が苦手で赤が得意です。X'ⓐがⅠ型、X'ⓑがⅡ型だった場合、互いに補い合って赤も緑もどっちも識別可能という事態が起こり、色覚特性に気付きません。遺伝のすごさに感嘆するばかりです。
話を戻します。私の母の「XX'ⓑ」が確定しました。まー君の母(私の叔母)が「X'ⓐX'ⓑ」で、かつ自覚がないタイプの色覚特性であれば、まー君が「X'ⓐY」である可能性がぐんと高くなります。まー君には姉が1人いるだけですが、他に兄弟が10人ぐらいいて全員が色覚特性者なら叔母の「X'ⓐX'ⓑ」説は確実です。しかし現実には、確率はほぼゼロに近いのではないでしょうか。私とまー君の色覚遺伝子が違うという説もほぼないとみてよさそうです。
では最後の三つ目になります。生きていく過程で遺伝子が成長した可能性についてです。この仮説が正しいかどうかはさておき、「色覚特性が改善できるかもしれない!」という私の妄想と夢物語です。次回お話ししますので、もう少しお付き合いください。(了)
〔お断り〕この連載では、文章の趣旨を的確に伝えるため、現在は使用を控えるようになった「色盲」「色弱」という言葉を必要に応じて用いています。
長瀬 裕紀(ながせ・ゆうき) 1級眼鏡作製技能士。過去に量販眼鏡店に就職するも勉強不足を痛感。修行のため眼科コメディカルとして10年弱勤め、年間3500人以上の目のケアに携わる。認定眼鏡士SS級のプロとして現在は吉祥寺の眼鏡店(グラストリーイカラ https://www.g-ikara.jp/)で勤務し、2022年度から始まった国家資格「眼鏡作製技能士」の試験に合格した。自身の体験談を踏まえた色覚特性のブログが人気を博し、数多くの問い合わせや相談が寄せられている。
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(2023/01/20 05:00)
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