ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに
障害のある子どもを産んだ母親は神様に選ばれたの?強くないといけないの? (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第6回】
◇障害児の親は明るい?強い?
皆さん、「障害児の親(特に母親)は、障害児がいるのに明るい、おおらか、パワフル」というイメージがありませんか?
実際は障害のある母親が強いわけではありません。
場合によっては、強くならざるを得ないケースもありますし、だんだん、わが子がいるのが当たり前の日常の生活になってきて、それが当たり前になってくることで、徐々に受け入れることができるようになったりもします。
長女0歳、首の手術が落ち着いたのでこの後、海外旅行へ
特に、私も含めオープンに発信するタイプや、行動をしていくタイプの親御さんが目立つことが多く、明るく見えているのもあるでしょう。でも、実際は受け入れられないままの親御さんだっていますし、ギリギリで生きている方もたくさんいます。
わが子がNICUにいる時に、障害を受け入れられずに1回も子どもに会いに来ていないんじゃない・・・?というような親御さんもいました。
でも、正直に本音を言うと、私自身は、その親御さんの気持ちがすごく分かるのです。産んですぐだと、「この子がいなかったら無かったことにできるんじゃないか?」とか、頭をよぎったりしますし、私も夫や母がいなかったら、そうなっていた可能性もゼロではないと思っています。
親も人間なので、受け入れられないこともあるでしょう。誰かの一言で救われたり、どん底に落とされたりすることもあります。
◇難病児を産んで初めて、障害児・難病児の親がギリギリで生きていることを知った
私の場合、自分自身が障害を持つ当事者でありながら、障害児の親でもあります。
長女を出産して、その立場になって初めて見えたことがたくさんあります。
私は割と前向きな性格ではあると思うのですが、それでも産んですぐ、わが子の障害を受け入れられるようになったわけではありません。
正直、生まれたばかりの新生児のしわくちゃの顔を見て、「かわいい〜〜〜!」って思えることもなく、「ただでさえ聞こえないのに子どもが難病って、どんだけ試練があるの?育てられるか自信はない・・・ほんまに無理やったらどうしよう」と出産後はずーっとメソメソ泣いていました。
へこんだ話、どんなふうに立ち直ったかという話は第4回でお話しした通りです。
◇言われたキーワードで、一番大っ嫌いなキーワード
「神様に選ばれたのよ」「あなたを選んで生まれてきたのよ」
この言葉、特に支援者が励ましで使う方が多いのかなと思うのですが、こういう言葉はなんの慰めにもならないですし、同じ立場ではない人は特に、使ってはいけないキーワードだと感じています。
誰も最初から障害なんて望まないですよね。
そんなすぐに、障害なんて受容できないご両親の方が多いと思います。私自身でさえ、自分に障害があるのにもかかわらず、子どもに難病があった時、めちゃくちゃ落ち込みました。
きれい事を言って、「あなたなら育てられるから、あなたを選んで生まれてきたのね!」とか言われるの、私は嫌いです。「じゃあ、代わってくれるの?」って思ってしまいます。
私自身は一番どん底に落ちている時、教育関係者や支援関係者の多くに、そういうふうに言われるたびに、モヤモヤしたり、内心イラッとしたりしていました。こういった言葉は励ましのつもりでも、人によっては、しんどいキーワードになりがちなことを知ってほしいなと思っています。
しんどいキーワード
◇場合によっては、訪問や、人からの気遣いがつらい人もいる
区の保健師さんなどは、母親(私)が聴覚障害を持ちながら難病児を育てていることを心配してくださっているようで、月に2〜3回ほど区役所から来るのです。
その気持ちや、制度は大切だと思います。
しかし、その保健師さんが来るということは、部屋を片付けないといけないし、「気にしなくていいよ〜」とは言われても、さすがに洗濯物とか、その辺にあるのは気になってしまいますし、お茶も出さないといけないし、昼寝もできないんですよね。
加えて聞こえない私の場合は、インターホンがいつ鳴るか?!いつ鳴るか?と、ずっとインターホンのランプを見ながら気を張っていないといけないことも苦痛でした。
保健師さんが来てくれても、話を聞いてくれるだけで、今の私が欲しい情報、いわゆる今後の見通しや、保育園の話などの相談は答えを全くもらえませんでした。
特にわが子の場合、首に爆弾を抱えていたことで、抱っこを慎重にしないといけなかったんですね。子どもが泣いても「お母さん、抱っこしてあげて〜」と言うだけで、当時私にとっては、部屋を片付け、お茶を出して、なんの助言ももらえず、時間と体力だけを消耗していくという感じでした。
心配してくれるのはありがたいですし、とにかく聞いてほしい!という方もいらっしゃると思います。ただ私の場合は、そんなことよりも今後の見通しを立てたかったのに、全く参考にならず、的外れな意見を言われることで、逆にしんどかったんですね。こういうケースもあります。
◇障害の受け入れ方は人それぞれ
デフサポを始めて実感しているのですが、わが子に障害があったときの受け入れ方は人それぞれです。
例えば見通しをつけて、今何をやるべきなのか?どういうことをすべきなのか?といったことを、すぐに対応していきたい!と思う人もいれば、とにかく隣にいてもらって、うんうんって聞いてほしい!と言う人もいますし、泣いて泣いて、スッキリする人もいます。
そして、ある日この日をきっかけに受け入れられた!という人もいると思いますが、多くの人は、日々毎日を過ごしていくうちに、慣れてきたりして少しずつ受け入れられるようになる人が多いのではないでしょうか。でも、受け入れたつもりでも、状況が悪くなって、へこんだりすることもあれば、園生活や人間関係がうまくいかなくて落ち込んだりすることもあります。
どうしても、親なんだから障害を受け入れるのが当然、という風潮があるなぁと肌で感じています。第三者から見ると、それは”正論”かもしれませんが、どん底に落ちた私からすると、受け入れられない親御さんも含め、ありのまま認めてもらえるとうれしいなぁと思っています。
◇障害当事者としての立場から言うと、子どもの前では自分を責めないでほしい
こんなふうに偉そうに語っておきながら、聞こえない私からすると、「あなたのこと、聞こえない子に産んでしまってごめんね・・・!」とか、「聞こえないことは恥ずかしいこと」「できるだけ聞こえないことを隠してね!」と言われると、それはすごくショックです。
「私は聞こえないから生まれない方がよかったの?」「聞こえないことって恥ずかしいことなの?」と思ってしまいます。
なので、たとえ心でそう思っていたとしても、言わないでほしいなと思っています。
私自身は、親御さんが受け入れられないことと、子どもにどう伝えるかは別にしてほしいなと思っています。
無理に受け入れる必要はないと思うし、親御さんがショックなことは、どんどんいろいろな人に相談して、つらいことはつらいって言っていいと思うけれど、それを子どもの前で「障害があるなんて…」というふうに言うと、子どもは敏感に感じ取るので、子どもの前では堂々としてほしいなと思います。
2021年、左から、夫、長女、次女、私です。どん底だった私も今はいろいろ受け入れて、とっても楽しい毎日です
◇いろいろな制度や選択があることを教えてほしい
もう一つ希望を言うと、「どんな制度があるのか?」といったアドバイスありきで、本当にどうしようもなくなってから「家で親が見ないといけない」という提案は最後にしていただけたらうれしいなぁ…ということです。
これは、わが家の話だけではなく、聴覚障害児の親も同じ環境に置かれています。「ろう学校(聴覚支援学校)の先生に『仕事をやめてください』と言われています…。本当にやめないといけないんでしょうか・・・?」とデフサポにも多くの親御さんが相談に来ます。
デフサポでは基本的にやめなくていいように、オンライン・通信教育といった形でサポートをしていますが、「障害児の母親は障害児育児・療育に専念しなければならない」と考えている支援者は、まだまだ世の中に多いんだなぁと実感しています。
ちなみに、デフサポでは現状、保育園に通うお子さんと幼稚園に通うお子さんと、それぞれいますが、言語レベルの差は出ていません。親御さんが意識して声掛けをできるか?や、しっかりした療育の概念を知っているか?による差は出ていますが、親が働いているかどうかは関係ないのだなとつくづく思っています。(了)
▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴
株式会社デフサポ 代表取締役
生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。
幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。
大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。
人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。
第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。
2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。
(2021/04/19 05:00)
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