治療〔ちりょう〕

 神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害の治療は、表に出ている症状を取り去ることを目的とする場合と(これを対症療法といいます)、症状が出てくるこころのしくみにメスを入れて根本的に治すことを目標にする場合とがあります。前者の場合は薬物療法が、後者の場合は精神療法が用いられます。

■薬物療法
 従来、これらの症状の治療ではベンゾジアゼピン誘導体の抗不安薬が用いられていました。この薬によって不安や緊張がやわらぎ、症状へのこだわりが少なくなり、こころに余裕ができることで日常生活への転換が可能になり、自分に自信がもてるようになっていきます。
 副作用として眠気、脱力、ふらつきなどがあります。特に高齢者では転倒などに注意する必要があります。抗不安薬の問題点は習慣性と依存です。この薬はほかの向精神薬とくらべて効果が早く出てくるので、効き目がよく自覚できます。そのために薬に頼ってしまいがちになります。また多くの量を服用すると、同じ効果を出すために薬の量をふやさないといけないといった事態になることがあります(これを耐性といいます)。
 しかし、通常の治療用量を守るかぎり心配はいりません。いたずらにおそれることはかえって治療にマイナスです。心配な場合は医師によくたずねてください。
 最近ではこれらの病気に対する抗うつ薬や抗精神病薬の効果が注目されるようになっています。たとえば、強迫性障害では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が適用になり、重症の場合は非定型抗精神病薬が併用される場合があります。パニック障害、社会恐怖、心的外傷後ストレス障害(PTSD)でも選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が適用されます。その他にも、神経症のためにうつ状態が出た場合には抗うつ薬が使われます。

■精神療法
 精神療法とは、治療者と患者(クライアントとも呼ばれる)の間で交わされる言語的・非言語的交流により、精神的な苦悩の原因を探ったりその解消を目指したりする治療法です。その種類は多く内容も複雑です。ここでの説明はきわめて簡明にし、かつ療法を受ける側から見て、どのようなものかといった視点で説明します。

□支持療法
 現在もっている心理的な苦悩を共感的に受けとめてもらうことを基本にした療法です。このような受容とともに、病気に対する取り組みに対して、支持や励ましを受けることにより快方に向かいます。

□表現療法
 悩み、うっ積した不満、怒りなどをことばによって表現する(吐き出す)ことにより、こころの緊張を解くことができます(カタルシスと呼ばれます)。言語的に表現しにくいときは、絵画療法や、箱庭療法(砂を敷きつめた箱に小さなオブジェを置いていく)などがあります。

□洞察療法
 病気の原因について認識を深められる治療法です。以前体験した出来事や人間関係と自分の性格などとの関係を考察し、なぜいろいろな症状が出るようになったのかを理解することで、病気を克服し新たな生活へと進んでいくことを目指しています。
・精神分析療法…自由連想法などを用い無意識の世界に抑圧されていた葛藤を意識化することで治癒に導かれます。
・来談者中心療法(カウンセリング)…治療者に語り続けるなかで、洞察が得られるように導かれる治療法です。

□訓練療法
 診察室での言語的なやりとりとともに、さまざまな行動をとりながら治療を進める方法です。
・森田療法…不安などの症状があるのは人間として自然なことと認め、症状があっても現実の生活のなかで必要なことがらに取り組んでいくことを通して結果的に症状から解放されていくという治療です。本来は入院治療から開始されますが最近は外来治療が主流です。
・内観療法…過去のありかたへの反省を通じて苦痛からの解放を目指します。神経症全般に用いられます。
・自律訓練法…筋肉の弛緩(しかん)などをおこなえるよう訓練して不安に対処していく治療法です。

□行動療法
 学習理論にもとづいて異常な行動を治していこうとする治療です。徐々に刺激を強くして不安に慣れていったり(系統的脱感作療法)、好ましい行動が得られたときに報酬を得たり(オペラント条件づけ)する方法などがあります。

□認知行動療法(認知療法)
 うつ病とともにパニック障害、社会恐怖、PTSDなどでも認知行動療法が有効です。不安やストレスを感じる対人場面で、どのような出来事が引き金になって自動思考などの好ましくない反応が自分のなかで起こるかを知って、合理的な対処方法を次第に習得していく方法です。詳しくはうつ病(気分障害)の治療の箇所をご覧ください。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)
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