抗菌薬の安易な処方による薬剤耐性菌の増加は、公衆衛生上の大きな問題となっている。国立成育医療研究センター社会医学研究部臨床疫学・ヘルスサービス研究室室長の大久保祐輔氏らは、2017〜18年度に出生した小児約16万例を最長48カ月追跡し、世界でも珍しい医療政策「小児抗菌薬適正使用支援(ASP)加算」導入の長期的影響を検討。ASP加算非導入群と比べ導入群で小児への抗菌薬処方が19.5%減少し、その効果は4年間持続したとClin Infect Dis2024年11月23日オンライン版)に発表した。

差分の差分法で長期的影響を推定

 ASP加算は2018年4月に導入された制度。診療の結果、抗菌薬使用の必要性が認められなかった3歳未満の急性上気道感染症や急性下痢症の患児について、抗菌薬を処方しない理由を保護者に文書で説明し、実際に抗菌薬を処方しなかった場合に、医療機関は1件当たり800円の加算を月1回まで保険者に請求できるというもの。2020年に診療報酬が改定され、ASP加算の対象年齢が6歳未満に引き上げられた。

 これまでに大久保氏らは、2018年度にASP加算を導入した医療機関で小児への抗菌薬処方が年間約18%減少したことを報告しているInt J Epidemiol 2023; 52: 1673)。しかし、2020年の改定による長期的な影響については検討されていない。

 そこで同氏らは今回、レセプトデータベースを用いて2017〜18年度に出生した小児16万5,113例を2022年5月まで追跡。差分の差分法(Difference-in-Differences)でASP加算導入群と非導入群を比較し、ASP加算が抗菌薬処方、外来受診、時間外受診、入院の発生率などに及ぼす長期的な影響を推定した。追跡期間は最長で48カ月だった。

広域抗菌薬処方は24.4%減少

 解析の結果、ASP非導入群に比べ導入群では、48カ月後の全抗菌薬処方が19.5%減少(効果量0.805、95%CI 0.709~0.913)、広域抗菌薬(第三世代セフェム系、キノロン系、経口ペネム系)処方は24.4%減少した(同0.756、0.664~0.860、)。

図.ASP加算による影響

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(国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 累積の外来受診回数はわずかに増加したが(同1.074、1.017~1.134)、時間外受診(同0.995、0.877~1.128)、入院(同0.645、0.448~0.928)の増加は認められなかった。総医療費はほぼ同等で(同1.025、0.903~1.164)、薬剤コストは13.8%低減した(同0.862、0.751~0.989)。

 以上から、大久保氏は「ASP加算は小児の抗菌薬処方を安全かつ効果的に減少させ、その効果は4年間にわたって持続した。したがって、ASP加算は抗菌薬の過剰処方を防ぐ政策として有用である」と結論。「ASP加算は、保護者に抗菌薬が不要な病態である旨を説明することに対する加算という世界的に珍しい政策。今後の薬剤耐性菌対策や抗菌薬適正使用を推進する上で、モデルケースの1つとなりうる」と付言した。

(編集部・比企野綾子)