価値観の多様化と変わる結婚観
価値観の多様化、女性の高学歴化による社会進出によって現代の女性のライフサイクルは近年大きく変化してきました。法的な婚姻関係にない夫婦も以前よりはふえているといわれていますが、それでも日本ではまだその比率はきわめて低いと考えられています。人口動態統計によると、2022年は男女の平均初婚年齢は男性31.1歳、女性29.7歳で、ここ数年変動は少ないものの、1995年の28.5歳、26.3歳にくらべてそれぞれ高くなっています。実は女性の初婚年齢のピークは27歳台と、27年前とほぼ変わっていませんが、年齢の低いものの割合が低下し、高いものの割合が上昇しているため、平均初婚年齢は27年前とくらべて3歳以上も高くなっています。
いっぽう、50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人間の割合を意味する生涯未婚率(いまは「50歳時未婚率」という)も1970年代までは男女ともに2%程度であったものが、2020年には男性は25.7%、女性は16.4%に上昇しています。日本の晩婚化は諸外国と比較しても顕著なものがあり、この現象は未婚で子どもをもつ女性が少ない日本において、晩産化を誘導するとともに出生率の低下にも直結しています。
日本の出生率(合計特殊出生率)は、戦後の第1次ベビーブーム(1947~49年)の最中である1949年には4.32、第2次ベビーブーム(1971~74年)の1971年には2.16を示しました。しかし、以後2005年(1.26)まで低下し続け、その後やや改善傾向を示したものの、2022年には1.26とふたたび最低値にならび、出産する生殖年齢女性の母集団の人数の低下とともに、出生数は低い値を推移しています。すなわち、年間出生数では、1949年の270万人以後、1973年には第2次ベビーブームで209万人と高い値を示しましたが、この第2次ベビーブームをピークに減少が続き、1985年143万人、2016年より100万人を下回り、2020年は84万835人、さらに2022年は推定77万747人とされ、いわゆる少子高齢社会の諸問題が深刻化しています。
晩婚化・少子化の原因はいろいろ考えられていますが、近年、男女の結婚に対する意識が変わってきていることもあげられています。いっぽう、女性の社会で働きたいという意思の変化に対し社会的環境が必ずしも変化していないことも大きな要因にあげられるでしょう。仕事をもつ女性がふえているのに、出産を機に仕事をやめる人の割合は依然として高く、また出産・子育てが一段落したあとに仕事に戻りたい人がふえているにもかかわらず、社会の受け皿が十分でなく、再就職や復職、正規の雇用や早期に職場に復帰することがいまだ容易でないという現実があります。
そうした状況をふまえて1997年に男女雇用機会均等法が改正され、妊娠・出産に関する健康管理の義務化が項目として加えられ(99年4月から施行)、98年には働く女性の母性保護規定が強化されました。また「健やか親子21検討会」が厚生労働省を中心に設置されて母子保健の課題と目標がまとまり、国民計画運動としての取り組みがおこなわれています。さらに、育児休業を最大3年間取れる制度の整備や待機児童を限りなくゼロに近づけるための保育園の増設や企業内の保育室設置の奨励、内閣府の男女共同参画基本計画に示された夫の家事・育児にかける時間の目標値設定などや子育て中の働く世代に柔軟に対応している企業をファミリーフレンドリー企業として表彰するなど、国もいろいろな施策をおこなってきました。
昨今、イクメン、イクボスなどは、よく聞かれることばとなりましたが、職場の上司、トップ、パートナー(夫)の意識の改革は、いまだ十分ではありません。
そうしたなか、国は男女ともに仕事と育児を両立できるように法律・制度の改正をおこないつつあります。2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日より男性育休の推進が段階的に施行されることとなりました。これを受けて、企業側も育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や妊娠・出産の申し出があった場合に制度等に関する周知と取得する意向の確認を個別におこなうことが義務化されました。また、2022年10月1日からは従来の育児休業とは別に産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。これは出生後8週間以内に4週間まで取得が可能で、分割して2回に分けての取得もでき、休業中でも一定の条件下に就業することが可能です。また、従来の育児休業制度も、原則、子が1歳(最長2歳)になるまで、2回に分割して取得することが可能となり、1歳を過ぎてからの育休の延長もできますが、その開始日を柔軟に決められるようになりました。育児休業等を理由とする不利益取り扱いの禁止・ハラスメント防止も義務付けられています。2023年4月1日からは従業員数1000人以上の企業は、育児休業取得状況を年1回公表することが義務付けられます。さらに、2023年6月には、女性の活躍支援の強化として、大企業(東証プライム市場に上場する企業)の女性役員の比率を2030年までに30%以上にするなどの女性版骨太の方針も示されました。
こうした時代背景にあって性や結婚に対する従来の常識が表面的には変わりつつありますが、「結婚の医学」の基本的な考えかたは夫婦・母子の健康な生活を守り、維持していくことに変わりありません。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)
夫 | 妻 | ||
---|---|---|---|
1950年 | 25.9 | 23.0 | |
1995年 | 28.5 | 26.3 | |
2005年 | 29.8 | 28.0 | |
2015年 | 31.1 | 29.4 | |
2018年 | 31.1 | 29.4 | |
2019年 | 31.2 | 29.6 | |
2020年 | 31.0 | 29.4 | |
2022年 (推定値) | 31.1 | 29.7 | |
注:各届出年に結婚生活に入ったもの 令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況より作成 |
いっぽう、50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人間の割合を意味する生涯未婚率(いまは「50歳時未婚率」という)も1970年代までは男女ともに2%程度であったものが、2020年には男性は25.7%、女性は16.4%に上昇しています。日本の晩婚化は諸外国と比較しても顕著なものがあり、この現象は未婚で子どもをもつ女性が少ない日本において、晩産化を誘導するとともに出生率の低下にも直結しています。
1975年 | 1985年 | 1995年 | 2005年 | 2015年 | 2020年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
平均年齢(歳) | 25.7 | 26.7 | 27.5 | 29.1 | 30.7 | 30.7 | 30.9 |
令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況より作成 |
日本の出生率(合計特殊出生率)は、戦後の第1次ベビーブーム(1947~49年)の最中である1949年には4.32、第2次ベビーブーム(1971~74年)の1971年には2.16を示しました。しかし、以後2005年(1.26)まで低下し続け、その後やや改善傾向を示したものの、2022年には1.26とふたたび最低値にならび、出産する生殖年齢女性の母集団の人数の低下とともに、出生数は低い値を推移しています。すなわち、年間出生数では、1949年の270万人以後、1973年には第2次ベビーブームで209万人と高い値を示しましたが、この第2次ベビーブームをピークに減少が続き、1985年143万人、2016年より100万人を下回り、2020年は84万835人、さらに2022年は推定77万747人とされ、いわゆる少子高齢社会の諸問題が深刻化しています。
母の年齢 | 1985 | 1995 | 2005 | 2015 | 2020 | 2022 |
---|---|---|---|---|---|---|
総数* (人) | 1,431,577 | 1,187,064 | 1,062,530 | 1,005,721 | 840,835 | 770,747 |
19歳以下 | 17,877 | 16,112 | 16,573 | 11,930 | 6,948 | 4,557 |
20~24歳 | 247,341 | 193,514 | 128,135 | 84,465 | 66,751 | 52,850 |
25~29歳 | 682,885 | 492,714 | 339,328 | 262,266 | 217,804 | 202,502 |
30~34歳 | 381,466 | 371,773 | 404,700 | 364,887 | 303,436 | 279,513 |
35~39歳 | 93,501 | 100,053 | 153,440 | 228,302 | 196,321 | 183,325 |
40~44歳 | 8,224 | 12,472 | 19,750 | 52,561 | 47,899 | 46,336 |
45歳以上 | 245 | 414 | 598 | 1,308 | 1,676 | 1,658 |
*総数には母の年齢不詳を含む 令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況より作成 |
晩婚化・少子化の原因はいろいろ考えられていますが、近年、男女の結婚に対する意識が変わってきていることもあげられています。いっぽう、女性の社会で働きたいという意思の変化に対し社会的環境が必ずしも変化していないことも大きな要因にあげられるでしょう。仕事をもつ女性がふえているのに、出産を機に仕事をやめる人の割合は依然として高く、また出産・子育てが一段落したあとに仕事に戻りたい人がふえているにもかかわらず、社会の受け皿が十分でなく、再就職や復職、正規の雇用や早期に職場に復帰することがいまだ容易でないという現実があります。
そうした状況をふまえて1997年に男女雇用機会均等法が改正され、妊娠・出産に関する健康管理の義務化が項目として加えられ(99年4月から施行)、98年には働く女性の母性保護規定が強化されました。また「健やか親子21検討会」が厚生労働省を中心に設置されて母子保健の課題と目標がまとまり、国民計画運動としての取り組みがおこなわれています。さらに、育児休業を最大3年間取れる制度の整備や待機児童を限りなくゼロに近づけるための保育園の増設や企業内の保育室設置の奨励、内閣府の男女共同参画基本計画に示された夫の家事・育児にかける時間の目標値設定などや子育て中の働く世代に柔軟に対応している企業をファミリーフレンドリー企業として表彰するなど、国もいろいろな施策をおこなってきました。
昨今、イクメン、イクボスなどは、よく聞かれることばとなりましたが、職場の上司、トップ、パートナー(夫)の意識の改革は、いまだ十分ではありません。
そうしたなか、国は男女ともに仕事と育児を両立できるように法律・制度の改正をおこないつつあります。2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日より男性育休の推進が段階的に施行されることとなりました。これを受けて、企業側も育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や妊娠・出産の申し出があった場合に制度等に関する周知と取得する意向の確認を個別におこなうことが義務化されました。また、2022年10月1日からは従来の育児休業とは別に産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。これは出生後8週間以内に4週間まで取得が可能で、分割して2回に分けての取得もでき、休業中でも一定の条件下に就業することが可能です。また、従来の育児休業制度も、原則、子が1歳(最長2歳)になるまで、2回に分割して取得することが可能となり、1歳を過ぎてからの育休の延長もできますが、その開始日を柔軟に決められるようになりました。育児休業等を理由とする不利益取り扱いの禁止・ハラスメント防止も義務付けられています。2023年4月1日からは従業員数1000人以上の企業は、育児休業取得状況を年1回公表することが義務付けられます。さらに、2023年6月には、女性の活躍支援の強化として、大企業(東証プライム市場に上場する企業)の女性役員の比率を2030年までに30%以上にするなどの女性版骨太の方針も示されました。
こうした時代背景にあって性や結婚に対する従来の常識が表面的には変わりつつありますが、「結婚の医学」の基本的な考えかたは夫婦・母子の健康な生活を守り、維持していくことに変わりありません。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)