性生活(セックス) 家庭の医学

 男性の性器(陰茎)は大部分が海綿体(かいめんたい:左右1対ある)からなっていて、海綿体は左右を弾力性のある膜でおおわれ、膜の中は多数の血管が入り組んでいます。男性は視覚、嗅覚、聴覚、触覚だけでなく心理的、情緒的な刺激によって性的に興奮しますが、それが大脳皮質に伝わり、自律神経が反応して陰茎動脈から多量の血液が海綿体に流れ込みます。同時に陰茎静脈の中の弁が閉じて血液が充満した結果、陰茎が大きくかたくなるのです。これがいわゆる勃起(ぼっき)です。
 女性の性器はおもに触覚、心理的な刺激による性的興奮によって腟壁(ちつへき)や外陰部のバルトリン腺などから粘液を分泌します。
 男性は女性の腟の中に性器を挿入し前後に動かすことで性的興奮と快感が高まります。それに脊髄の副交感神経が反応し、オーガズムに到達すると射精管から精液が尿道に射出され、陰茎の外尿道口から放出されます(射精)。男性は勃起が起こらなければセックスは不可能で、オーガズムが射精というはっきりとした現象にあらわれますが、いっぽう女性は性器の構造上、性的な興奮を伴わなくてもセックスは可能で、オーガズムに達しても射精のような目に見える生理現象はありません。このように男女には生理的な違いがあります。
 セックスに対する考えかた、精神的、身体的な反応は個人差が大きいものですので、こうでなければならない、これが正しいというものはありません。それらは年齢、家庭環境、家庭や学校における性に関する教育や考えかた、過去の性体験などによって変わってきますが、一般的に性行為の目的・役割は、①生殖、②よろこびを得る(与える)、③信頼関係を築く(コミュニケーション)といわれています。
 以前より、性生活以前に男女がたがいの生理について理解が不足したまま結婚し、それがもとで気まずい思いや誤解が生じることがあると指摘されています。たとえば女性の場合、人によっては月経が重く、その間体調がわるくなったり精神的にひどく落ち込んだり怒りっぽくなったり、セックスに対して消極的になるということがあり、そのことを受け入れてもらえずに悩む場合もあります。いっぽう、男性は年齢に従って精力は衰えてくるもので、早漏になったり、性器が勃起しにくくなります。これらのことは男性にとってはたいへんデリケートな問題ですので、女性からこうしたことを指摘されると男性のプライドは傷つきます。また、男性の場合、勃起しやすいのは朝起きた直後が多いといわれますが、朝起きぬけにセックスを求められると戸惑う女性も多いようです。

 以上のようなことを含め、それぞれがパートナー(夫婦)のからだの状態を理解したうえで、思いやりをもって接することが快適な性生活を送るうえでは必要なことです。性のよろこびは男女が力をあわせてつくり出していくものですので、たがいの生理や性生活への意識、希望について率直に話しあうことをおすすめします。また、パートナーどうしの信頼関係を築くための手段は、なにがなんでもセックスでなければならないというわけでありません。特に女性の場合は抱きあったり、手をつないだり、からだや脚のマッサージなどのスキンシップや、いっしょに旅行やコンサート、美術館などに出かけて同じ時間を共有し、同じものに共感することを通してでも十分可能ですので、気分がのらない、体調が優れないときなどはフランクにそのことをパートナーに伝えて理解を得ることが大切でしょう。
 最近は、婚姻関係にある男女の40%以上が1カ月間に性交またはそれに準じる性的な接触をもたない、いわゆるセックスレスに近い状態にあるという調査もあります。ふたりでは解決できないセックスに関する悩みや不安については、産婦人科医や心理カウンセラーに相談してみるのも一つの方法です。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子