療養者の状態を知る

■病気に関する知識を得る
 療養者の状態を知ることは、自宅で介護をするうえでとても重要なことです。自分はしろうとだから病気のことはわからないと考えず、次の点について理解を深めておくと介護に役立つことがあります。

・病気がどのようなものであるか、また、どのような治療がなされているかを知っておきます。今後の経過がどのように予測されているかも理解しておくとよいでしょう。

・起こりやすい問題は、問題の予防法、問題発生時の対処法を知っておきます。これは訪問看護師やケアマネジャーに聞いてみるとよいでしょう。

・必要な食事制限(たとえば塩分やカリウム制限)、また、積極的に対応すべきこと(たとえばリハビリテーション)を知っておきます。

■からだの観察のしかた
 療養者の病状を念頭に置き、ふだんの状態(正常な場合)と、ふだんとは違う状態(異常な場合)を観察します。
 まず、からだが安定しているときの、いつもの状態を知っておく必要があります。基本的には、バイタルサイン(生命徴候)と呼ばれている体温、脈拍、呼吸、血圧が、病状を含む全身状態の把握にたいへん役立ちます。
 これらの値は、運動や食事、1日のなかでも変動します。あまり神経質になることはありませんが、主治医や訪問看護師に観察する内容を確認し、ノートに毎日記載しておきます。通常は朝夕の2回くらい測定します。

■観察のポイント
 ふだんは、①表情・顔いろ、②食欲、③排泄(はいせつ)の状況(尿・便の回数、性状・量など)、④睡眠、⑤体重(計測が可能な場合)、⑥日常動作のようす、⑦症状(むくみ、せき、たん、湿疹などの気になること)、⑧服薬状況などをメモしておくと、のちに聞かれたときに答えられるので便利です。

■バイタルサイン
□体温
 体温を測定する場合は、デジタル式の体温計が使いやすく安全です。測定する部位は、わきの下、口腔(こうくう)などがあります。体温は測定部位によって差がありますから、いつも一定の部位で測定するようにします。

・わきの下の場合…汗をかいていると、正しい体温をはかることができません。汗をふきとってからはかります。まひがある場合は、まひのない側ではかります。測定の最中は、わきの下にすきまをつくらないようにします。

・口腔の場合…口腔専用の体温計を使います。口の中に入るものですから、清潔な体温計を使います。口腔内はわきの下ではかるより、やや高めの体温になります。この測定法は、意識障害や呼吸困難のある療養者には不向きです。体温計は舌の下に入れ、かまないように気をつけ、口は軽く閉じます。
 このほか、耳の穴に体温計の先端を当てて測定できる耳式体温計などもあります。

□脈拍
 脈拍は、心拍数を間接的に知るものです。脈拍数は、ふつう1分間で測定し、脈の強さやリズムの乱れがないかどうかも観察します。測定部位は、手くびのやや外側やひじの内側にある太い動脈をさがし、右手の人さし指から薬指の3本を軽く当ててはかります。

□呼吸
 呼吸は胸や腹部の上下の動きを見ながら、1分間測定します。このとき、呼吸の深さ、顔の表情、顔いろもいっしょに観察します。呼吸は意識すると変動することがあり、測定時は、本人に気づかれないようにします。

□血圧
 血圧は、心臓から送り出された血液が血管壁にはたらく力です。血圧は、運動、精神的な緊張、疲労、痛みなどで変化するため、気持ちが安定している状態でゆっくり深呼吸をしながら測定します。血圧計は、市販のデジタル式の自動血圧計が脈拍もいっしょに表示されるため、自分でも測定でき便利で使いやすいでしょう。
 測定部位は通常、ひじの内側ですが、手くびや指先で測定できる血圧計もあります。測定方法は、血圧計によってすこしずつ違います。ひじの内側で測定するときは、血圧計のマンシェット(腕に巻く部分)の中央が、ひじの内側の上腕動脈に当たるように巻き、その高さが療養者の心臓の高さと同じになるように台などで調整します。

 これらのバイタルサインに加え、病状や治療の経過から、なにをどのように観察するかについて、主治医や看護師から指導を受けます。いつもと違う状態、症状があれば、いつ、どのような状況で、どのくらいの期間、どの程度起こり、どのように対処し、その結果どうなったかを記録し、主治医、訪問看護師にできるだけ早く報告しましょう。
 介護者が正しい情報を迅速に伝えることで、医師や看護師は適切に治療、ケアをすることができます。

(執筆・監修:東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 看護科学域 准教授 竹森 志穂)