家庭介護のコツ 家庭の医学

■療養者の心理を知る
 自宅での療養は医療機関と違い、住み慣れたわが家での生活になります。しかし、健康なときと違い、療養者は症状が出たり、それまでできていたことができなくなっています。
 1日のほとんどをベッド上で過ごしていると、一人で考える時間が多くあります。それだけに療養者本人にしてみれば、思うようにならない自分のからだや、他人に依存しなければならない、自分に対しての悔しさ、情けなさ、怒り、いらだちを介護者にぶつけてくることがあります。
 健康な人にくらべ、ストレスがたまりやすく、そのうえ、ストレスを発散できる機会はずっと少ないので、ときには自分自身の価値観を喪失し、生きることに対する気力を失ってしまうこともあります。
 病気によっては、脳梗塞の後遺症などのように感情のコントロールがうまくできず、ちょっとしたことで怒ったり、泣いたりすることがあります。他人とのコミュニケーションをうまくとることができない病気もあります。そのため、療養者のこころの動きはさまざまですが、誰のこころにも、「大切にされたい、愛されたい、必要とされていたい」という思いがあることを忘れないでください。

■療養者への対応
 療養者は、介護をしてくれる人の気持ちをしっかりと感じています。それだけに、療養者を家族の大切な一員として、愛情をもって対応するよう心掛けます。療養者への対応は、一人ひとり異なりますが、共通している次のようなことに気をつけましょう。

・病気のために感情的になることも多いので、怒りなど負の感情に対して、いっしょに流されず、療養者のあらわす感情をできるだけ客観的に受けとめるようにします。しかし、喜びや、うれしさをともに分かち合うことも大切なことです。

・療養者には、命令的な口調ではなく、「…してみますか」「…してみましょうね」と、意思決定を療養者本人ができるようにします。

・療養者の気持ちを受けとめ、上手な聞き役になるようにします。

・療養者の不当な怒りや攻撃に対しては、介護者自身のせいであると自分を責めたりせず、病気によるものと受けとめましょう。そして、療養者の態度に対して冷静に介護者が不快であると伝えましょう。

・スキンシップをはかりましょう。療養者は、さまざまな不安や孤独を抱えています。ちょっとしたことばをかけるとき、あるいはそばにいるとき、手をにぎったり、からだに触れるなどのスキンシップをはかることが大きな安心を与えることになります。

■はじめから上手な介護はできない
 誰でも最初から、療養者の満足のいくケアを提供できるわけではありません。入院中に、ケアの方法を看護師に指導してもらっても、療養者や介護者の納得のいくケアをおこなえるようになるには試行錯誤が伴うものです。すこしずつ慣れていくことが、上手な介護の始まりです。

■がんばりすぎない
 多くの介護者は、とてもまじめに毎日、療養者へのケアをおこなっています。疲れていても、自分がやらなければとがんばってしまいます。家事や仕事をしながらの介護はとてもたいへんです。
 完璧な介護をしようとがんばりすぎて体調をくずしては、療養者の自宅での生活も介護者自身の生活も成り立ちません。介護者のなかには、腰痛のために介護ができなくなったり、疲労による高血圧で倒れてしまう人もいます。介護者あっての療養生活です。
 長期間の介護が必要な場合は、自分のできる範囲での介護をおこない、無理をしすぎないことです。がまんをせず、家族や周囲の関係者に協力を頼んだり、ショートステイを利用したり、ホームヘルパーや訪問看護師のサービスを一時的にふやしてみるようにします。
 特に夜間の介護がふえそうなら、最低でも2人か3人の介護者がいないと24時間が回らないと考えたほうがよいでしょう。

■息抜きをする
 介護者が、いつも冷静に介護をできるとは限りません。家事に仕事、そして介護のために忙しすぎて、また、疲れてストレスがたまることは避けられません。こうした状態では療養者に対して、優しくできないこともあります。すこしでも、自分の時間をもてるよう、他者に一時的に介護を頼めるように工夫することも大切です。
 また、なんでも話せる友達や、趣味をもち続けることもストレスの発散になります。忙しい合い間にホッとする時間をもち、ストレスを発散することが心身の健康維持につながります。

■社会資源を使う
 療養者の生活に必要な社会資源は、入院中に準備しておきます。
 しかし、療養者の状態や介護状況に応じて、訪問看護師やホームヘルパーの派遣、入浴サービスや、ショートステイ(介護者が病気などで、介護が困難となった場合、あるいは休養が必要とされる場合、一時的ですが、療養者を医療施設や福祉施設で世話することができます)の利用などを取り入れていくことが、長期の療養の場合は特に大切です。
 自宅での介護に困ることがあれば、早めに担当のケアマネジャーや、市区町村の窓口に相談すると、いっしょによい方法を考えてくれます。

(執筆・監修:聖路加国際大学大学院看護学研究科 准教授〔在宅看護学〕 竹森 志穂)