認知症の介護
認知症と診断される人の数は、年々ふえています。2025年には700万人を超える見通しで、それは65歳以上の5人に1人に相当するといわれています。
認知症の症状には、大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」があります。ものを覚えられなくなる、時間や場所がわからなくなるといったことは「中核症状」にあたり、病状の進行に伴って多くの認知症の人にあらわれます。いっぽう、いらいらする、暴力をふるう、徘徊(はいかい:歩き回り)するといったものは「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれ、生活する環境やまわりの人の接しかたによって軽減できる可能性があります。一般に「行動・心理症状(BPSD)」が多くみられるほど、介護負担が大きくなるといわれています。
■認知症の種類
認知症をひき起こす病気はたくさんありますが、日本では、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3つが主で、これらをあわせると認知症全体の9割を超えるといわれています。
アルツハイマー型認知症は、最近の出来事を覚えておくことがむずかしくなる、時間や曜日があやふやになるといった症状から始まることが多い認知症です。そのため、友人との約束をすっぽかす、ごみを出す曜日をまちがえる、火を消し忘れるといったことが度重なり、生活がうまくいかなくなります。
脳血管性認知症は、脳の血管がつまることによって起こります。つまった場所によって症状はさまざまですが、たとえば、ことばがうまく出なくなる、視野の片方にだけ注意が向かなくなる、人格が変わるといったことが起こります。
レビー小体型認知症は、物の見えかたに支障をきたすというのが特徴です。その場にいない人物が見えたり、壁のシミを虫といったりします。また、からだの動きがぎこちなくなることもあります。
■認知症の人への対応
□認知症かなと思ったら
いっけん認知症のように見えても、実はほかの病気が隠れているということも少なくありません。例えば、ビタミンが不足することで認知症に似た症状を引き起こす場合があります。この場合、ビタミンを補うことで症状は改善します。認知症の診断技術は、年々高度になっており、治る認知症もふえてきています。まずはしっかりと診断を受けることが大切です。認知症かなと思ったら、かかりつけ医や、もの忘れ外来、地域包括支援センターなどに相談してみましょう。
□せかしたり怒ったりは逆効果
認知症の人たちは、変わりゆく自分自身に対して、不安や恐怖を抱えながら生活しています。トイレに行きたいけどどうしたらよいのか、周囲の人の話がむずかしくてわからない。そのようなことが重なると、いらだちや混乱がさらに強くなることもあります。
認知症の人のなかには、覚えることが苦手な人たちがいます。しかし、そのような人も、そのとき受けた感情は残るといわれています。トイレに誘うときや何か伝えたいことがあるときは、まず穏やかな態度とわかりやすいことばで語りかけてみてください。目線が合うようにかがんだり、手をそっとにぎることが効果的な場合もあります。
いっぽうで、せかしたり怒ったりするのは逆効果です。もしあなたが、認知症の人に対して、いらいらしながら冷たい態度で接したら、そのときに受けたいやな感情だけが残ってしまいます。うまくいかないときは、ほかの人に代わってもらったり、時間をおいてもう一度トライするとよいかもしれません。
□同じことを何度もくり返すとき
認知症になると、同じことを何度もくり返すことがあります。数分おきに「デイサービスのおむかえは何時だっけ?」とたずねたり、今日は友人が来るはずだと玄関の前を行ったり来たり。やさしく接したいと思っていても、つい口調が強くなってしまうこともあるでしょう。
くり返す行動には、記憶が深く関係しています。覚えておくことが苦手な認知症の人にとって、「さっきも言ったでしょ」は通用しませんし、行動を減らそうと鍵をかけたりすると行動がさらにひどくなることもあります。
残念ながら、この行動に対する魔法の方法はありません。しかし、くり返す行動の裏には、ご本人なりの心配事や不安が隠れていることが多くあります。ご本人の心配事に目を向けながら、根気強く接することが大切です。文字や絵を使って伝える、部屋を明るくする、心地よい音楽をかけるといったことが功を奏する場合もあります。ご本人をよく知るご家族だからこそ気づくことがあるかもしれません。
□思いきって誰かに話そう
そうはいっても、認知症の人を介護するのは簡単なことではありません。近しい間柄であればあるほど、変わりゆく配偶者や親、きょうだいを受け入れられないという、こころのつらさがあるかもしれませんし、悩みや迷いもあるでしょう。
そんなときは、一人で抱え込まず、思いきって誰かに話してみませんか。親戚や友人に相談したり、愚痴をこぼしたりすることで、こころが軽くなるかもしれません。また、保健所や地域包括支援センターには相談窓口があり、電話での相談もできます。ほかにも、認知症の当事者やその家族が集まる集会、自治体や福祉団体などが開催する介護教室に参加することで、新しいアイデアや介護のヒントが見つかることもあります。
あなたが感じている悩みやつらさは、ほかの介護者にとっても同じかもしれません。みんなで一緒に考えていきましょう。
(執筆・監修:聖路加国際大学大学院看護学研究科 助教〔在宅看護学〕 西村 恵理奈)
認知症の症状には、大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」があります。ものを覚えられなくなる、時間や場所がわからなくなるといったことは「中核症状」にあたり、病状の進行に伴って多くの認知症の人にあらわれます。いっぽう、いらいらする、暴力をふるう、徘徊(はいかい:歩き回り)するといったものは「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれ、生活する環境やまわりの人の接しかたによって軽減できる可能性があります。一般に「行動・心理症状(BPSD)」が多くみられるほど、介護負担が大きくなるといわれています。
■認知症の種類
認知症をひき起こす病気はたくさんありますが、日本では、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3つが主で、これらをあわせると認知症全体の9割を超えるといわれています。
アルツハイマー型認知症は、最近の出来事を覚えておくことがむずかしくなる、時間や曜日があやふやになるといった症状から始まることが多い認知症です。そのため、友人との約束をすっぽかす、ごみを出す曜日をまちがえる、火を消し忘れるといったことが度重なり、生活がうまくいかなくなります。
脳血管性認知症は、脳の血管がつまることによって起こります。つまった場所によって症状はさまざまですが、たとえば、ことばがうまく出なくなる、視野の片方にだけ注意が向かなくなる、人格が変わるといったことが起こります。
レビー小体型認知症は、物の見えかたに支障をきたすというのが特徴です。その場にいない人物が見えたり、壁のシミを虫といったりします。また、からだの動きがぎこちなくなることもあります。
■認知症の人への対応
□認知症かなと思ったら
いっけん認知症のように見えても、実はほかの病気が隠れているということも少なくありません。例えば、ビタミンが不足することで認知症に似た症状を引き起こす場合があります。この場合、ビタミンを補うことで症状は改善します。認知症の診断技術は、年々高度になっており、治る認知症もふえてきています。まずはしっかりと診断を受けることが大切です。認知症かなと思ったら、かかりつけ医や、もの忘れ外来、地域包括支援センターなどに相談してみましょう。
□せかしたり怒ったりは逆効果
認知症の人たちは、変わりゆく自分自身に対して、不安や恐怖を抱えながら生活しています。トイレに行きたいけどどうしたらよいのか、周囲の人の話がむずかしくてわからない。そのようなことが重なると、いらだちや混乱がさらに強くなることもあります。
認知症の人のなかには、覚えることが苦手な人たちがいます。しかし、そのような人も、そのとき受けた感情は残るといわれています。トイレに誘うときや何か伝えたいことがあるときは、まず穏やかな態度とわかりやすいことばで語りかけてみてください。目線が合うようにかがんだり、手をそっとにぎることが効果的な場合もあります。
いっぽうで、せかしたり怒ったりするのは逆効果です。もしあなたが、認知症の人に対して、いらいらしながら冷たい態度で接したら、そのときに受けたいやな感情だけが残ってしまいます。うまくいかないときは、ほかの人に代わってもらったり、時間をおいてもう一度トライするとよいかもしれません。
□同じことを何度もくり返すとき
認知症になると、同じことを何度もくり返すことがあります。数分おきに「デイサービスのおむかえは何時だっけ?」とたずねたり、今日は友人が来るはずだと玄関の前を行ったり来たり。やさしく接したいと思っていても、つい口調が強くなってしまうこともあるでしょう。
くり返す行動には、記憶が深く関係しています。覚えておくことが苦手な認知症の人にとって、「さっきも言ったでしょ」は通用しませんし、行動を減らそうと鍵をかけたりすると行動がさらにひどくなることもあります。
残念ながら、この行動に対する魔法の方法はありません。しかし、くり返す行動の裏には、ご本人なりの心配事や不安が隠れていることが多くあります。ご本人の心配事に目を向けながら、根気強く接することが大切です。文字や絵を使って伝える、部屋を明るくする、心地よい音楽をかけるといったことが功を奏する場合もあります。ご本人をよく知るご家族だからこそ気づくことがあるかもしれません。
□思いきって誰かに話そう
そうはいっても、認知症の人を介護するのは簡単なことではありません。近しい間柄であればあるほど、変わりゆく配偶者や親、きょうだいを受け入れられないという、こころのつらさがあるかもしれませんし、悩みや迷いもあるでしょう。
そんなときは、一人で抱え込まず、思いきって誰かに話してみませんか。親戚や友人に相談したり、愚痴をこぼしたりすることで、こころが軽くなるかもしれません。また、保健所や地域包括支援センターには相談窓口があり、電話での相談もできます。ほかにも、認知症の当事者やその家族が集まる集会、自治体や福祉団体などが開催する介護教室に参加することで、新しいアイデアや介護のヒントが見つかることもあります。
あなたが感じている悩みやつらさは、ほかの介護者にとっても同じかもしれません。みんなで一緒に考えていきましょう。
(執筆・監修:聖路加国際大学大学院看護学研究科 助教〔在宅看護学〕 西村 恵理奈)