のどの病気 家庭の医学

解説
 額帯鏡に象徴される耳鼻咽喉科医はなぜまとめて、耳と鼻とのどを診るのでしょうか。理由は、耳と鼻とのどはきわめて密接な関係にあるからです。
 たとえば、かぜをひくと鼻とのどに症状が出て、やがて耳にも症状が出ます。耳が痛くて耳鼻咽喉科に行ったのに、鼻やのどを診られるのはなぜでしょうか。その理由は耳鼻咽喉科で扱うすべての器官が1つの空洞で鼻の奥、両耳の間、のどのてっぺん、つまり、顔と頭の中心の上咽頭(じょういんとう)でつながっているからです。したがって、鼻がわるくなると耳が痛くなったり、のどが痛くなったりします。
 このように、耳鼻咽喉系はすべての器官がつながっており、それぞれが密接な関係を保ち、耳・鼻・咽・喉の、どれか一つに障害が出ても、やがてすべてに波及します。声がかれて耳鼻咽喉科に行っても、鼻や耳も診るのはそういう理由です。これらの深い穴の奥を観察・治療するために、耳鼻咽喉科医は額帯鏡と金属製の特殊な器械や綿棒を用いるわけです。

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一
コラム

長寿社会の耳鼻咽喉科

 令和となり、わが国は現在100歳以上の長寿者が9万人を超える(2022年9月16日現在、厚生労働省発表)世界一の長寿国家です。このことは、国民・国家・医療が力を合わせて勝ちとった世界に誇るべきことです。しかしながら、ただ生きているだけでは楽しみはうすれます。
 耳鼻咽喉科の扱う感覚器(聴覚・平衡覚・味覚・嗅覚)の機能は加齢とともに衰えます。のどの機能もその発声機能、つまり言語によるコミュニケーションと嚥下(えんげ)の機能が低下してきます。
 人間としてその尊厳を保ち、健康長寿であるためにはこれら感覚器機能を最期まで充実させることが理想です。

■加齢による嚥下機能の低下
 嚥下の機能は、人間である前に動物として生きていくうえで大切です。キリンや馬など、くびの長い動物の、のどの位置は口のすぐそばにあり嚥下に適していますが、言語をしゃべることはできません。人間のみがのどの位置がくびの真ん中に下がって音色をつける構音が可能になり、音声言語による会話ができるようになりました。その代わり、嚥下のたびにのど(喉頭〈こうとう〉)の位置をもち上げて口との距離を縮めて誤嚥(ごえん)を防ぐ、喉頭の挙上が必要になります。舌による送り込み、軟口蓋(なんこうがい)の挙上、咽頭(いんとう)の収縮、喉頭の挙上がすべてタイミングよく起きればむせることなく、正常に嚥下できます。
 しかしながら、加齢により身体運動能力が低下すると同様に、これらの機能のタイミングが微妙にずれてむせやすくなります。嚥下の際の反射も一般に弱くなります。放置していると誤嚥性肺炎になります。
 たとえば、あごをひくこと(あごを胸につけるように)で喉頭の挙上は代役できますし、鼻をしっかりつまみ、鼻から空気が漏れないようにすることで軟口蓋の挙上が代役できます。この2つを意図的におこなうことで嚥下が可能になる人もいます。その意味でも、加齢に伴いのどぼとけの位置は重力に負けて、皮膚のたるみ同様に下がってきます。喉頭の位置も下がります。あごを引き気味にして逆に口の位置をのどに近づけることで誤嚥を回避しやすくなります。その意味で高齢者はストローを使って、水分補給をすることをおすすめします。嚥下がうまくいかないときは、つばが出て口にたまるなどの訴えもあります。この場合、うまく無意識に嚥下ができていない場合があります。また、せき込んだり、むせたり、声がかすれている場合、声門閉鎖不全も考えられます。そのようなときは、どんどん積極的に声を出して音声訓練などを試みましょう。好きな文章や詩の朗読、歌唱、詩吟、カラオケなどできるだけ声を出しましょう。
 人間は喉頭の位置が下がったことで、言語コミュニケーション機能が与えられました。同時に、嚥下機能が複雑になり、誤嚥しやすくなりました。会話ができるようになった分、生涯会話をし続けなければならない宿命を負わされたのかもしれません。
 嚥下がうまくいかないときは耳鼻咽喉科のある大きい病院に相談しましょう。近年、嚥下の手術は飛躍的に進歩しており、気管切開(呼吸は気管から直接)と胃瘻(いろう:胃に直接食事用の穴をあけている)の寝たきりの高齢者が、訓練や手術によって口から食べて呼吸もできるようになり、元気に歩けるようになることもあります。

■加齢による発声機能の低下
 加齢により発声の動力源としての肺活量は低下します。聴力も加齢で低下し、フィードバックをするのに大きな声が必要となります。声帯も加齢で萎縮し、声がかすれるだけでなく、ふんばれなかったり、疲れやすくなります。「声の衛生」に注意したうえで、どんどんふんばって大きい声を出すように練習しましょう。このとき、舌や口腔(こうくう)などの構音器官も同時に動きがわるくなっていますし、その潤滑液である唾液や粘液もその分泌が落ちています。これらを刺激する意味でのおしゃべりとうがいが有効です。「健康長寿は会話から!」です。
 その前に耳鼻咽喉科を受診してのどを診てもらいましょう。音声外科手術は日本のアイデアや技術が世界をリードしています。

●声帯萎縮・声帯溝症などによる声門閉鎖不全への対策
 いずれにしても、かかりつけの医師に相談してから行いましょう。

【練習法】
 以下①~⑤のいずれか取り組みやすい運動をしながら、1~10まで数唱する。この際、イチッと発声した瞬間に声を出して下記の運動を行うことで声門閉鎖を強化できます。
 ①胸の前で軽くひじを曲げ、後ろに引いて胸を張る瞬間に声を出し、戻す。
 ②椅子の下に手をかけ、椅子を引っ張り胸を張り、その瞬間に声を出し、戻す。
 ③両手を胸の前で合わせ、両手を押す瞬間に声を出す。
 ④壁の前20~30cmに立ち、壁を押す瞬間に声を出す。
 ⑤両手を組み、おなかを押すように当て、腹筋に力を入れる瞬間に声を出す。

【練習する回数】
 1~10×2セットを朝晩(1日2回)

【注意点】
 ・発声は短く。力を入れた瞬間に声を出す。
 ・しっかり間隔をあけて数唱する。
 ・のどには力を入れないで行う。
 *整形外科や他の科にかかっている方は行う前に主治医に確認してください。



■加齢による味覚機能の低下
 高齢者の場合、若いときにくらべ皮膚は乾燥してしわが出ます。同様に、唾液腺の唾液をつくる機能もおとろえるため口の中が乾燥したり、味覚障害をうったえることもあります。水分をよくとり、うがいをよくしましょう。味覚や嗅覚・視覚の低下は食事に対する意欲も低下させます。
 そのほか、内科や外科などほかの科で処方された薬や美容、健康サプリメントにより、口の中が乾燥しやすくなる場合もあります。

(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一