[のどの構造とはたらき]
のどには咽頭(いんとう)と、喉頭(こうとう)があります。咽頭は、口の中で誰でも懐中電灯で見られる部分です。喉頭はちょうどのどぼとけの部位にあたり、専門家が特殊な器機を使ってはじめて見えるところです。図のように、耳鼻咽喉はすべての器官が耳も含めて上咽頭でつながっており、それぞれが密接な関係を保ち、耳・鼻・咽・喉の、どの一つに障害が出ても、やがてすべてに波及します。
■のどのはたらき
一般に呼吸をするとき人は鼻から息をしますが、激しい運動のあとなどは口からも呼吸します。口の中に入れた水分や食物は、歯でかんで、舌で味を感じて嚥下(えんげ:飲み込み)します。この中心的な役割をするのが喉頭です。つまり空気は気管へ、食べ物は食道へ正確に分別することが、その第一の機能です。
次に大切なのは胸郭(きょうかく)の固定です。たとえば重いものを持ち上げたり、ふんばったりするとき、呼吸をとめて肺の中の空気を逃がさないようにして、からだ全体の筋肉の作用を発揮させるための土台として胸郭の固定をします。このとき喉頭は、肺からの空気が逃げないようにしっかり気管の上で閉じます。
そして、のどのもう一つの機能が発声です。肺からきた空気(呼気)が喉頭にある声帯を振動させることによって、音にして咽頭や口蓋(こうがい)、鼻・鼻腔(びくう)、舌、口唇(こうしん)を変化させて音色を加えることで、ことば(言語音)としてコミュニケーションをとります。
このとき、自分の声は常に自分の耳に入り(フィードバック)、その指令は聴覚器官を通して(脳)中枢に戻ります。この一連のしくみを「ことばの鎖」といいます。
□発声器官としてののど
「声を出そう」という脳からの指令で、まず肺は呼気(こき:口や鼻から吐く息)を生成します。この呼気が発声の動力源です。したがって、呼吸器系の病気があり肺活量が少ない人では、長い発声はできず、会話中に息つぎをしたり、声に力がなくなります。健康な人でも運動のあとは同じような状態になります。
呼気は次に、気管を通りそのてっぺんの喉頭にきます。喉頭は気道を守るため複数の軟骨組織とそれを動かす筋肉、表面の粘膜よりなり、その内腔(ないくう)に声帯があります。左右の声帯は、ふだんは呼吸のために開いていますが、声を出すときや胸郭の固定時は脳からの指令でピタッと正中で合わさります。
声を出しているときの声帯を内視鏡で見るとただ閉じているだけに見えますが、このとき声帯は目に見えない速度で左右対称に振動しています。
声帯はやわらかく弾性にとんだ粘膜と結合組織、筋肉から構成されていて、目に見えない粘膜の波状の動き(粘膜波動)をしています。
左右の声帯は粘膜のやわらかいところでぶつかるため、空気が声帯を押し上げすきまをつくり、空気を出しますが、次の瞬間ベルヌーイ効果(たとえば、白線の外側で通過電車を待っていると電車に引き込まれること)により左右の声帯粘膜が正中にひき寄せられてぶつかります。さらに次の瞬間、左右の声帯が肺からの空気でもち上げられて呼気が排出されます。
この声帯の開閉が1秒間に何百回も起こり、音(喉頭原音)が生成されます。この音はブーとかピーという振動の音で、音色がまだ加わっていません。男性では1秒間に100~150回、女性では同様に200~300回振動します。このため、一般に女性は男性より高い声になります。ギターの弦の細いほうが高い音が出るのと同様に、その差は男性のほうが太い声帯だからと考えられます。
さらに高い声を出すときは声帯の長さを長くします。ゴムを持ってはじいたときに、そのゴムを伸ばすとだんだん高い音が出ることと同じです。
強風のとき古くなった窓のすきまからピーッと音が出ますが、窓を大きくあければ風は入るけれども音は消えます。これと同じで、声帯がしっかり閉じない状態(声門閉鎖不全)では声帯振動が起こりにくく、息の漏れた、ささやくような声になります(気息性嗄声〈させい〉)。
また、声帯の炎症や病変などで左右の声帯全体の振動が起こりにくいと、声帯振動が不規則になりガラガラ声(粗造〈そぞう〉性嗄声)になります。片方の声帯にがんやポリープができたときは左右の重さも変わり、声帯がしっかり閉じなくなるため両者のまざった嗄声になります。
つまり、嗄声(声がれ)は声帯の振動の異常です。
声帯の振動により音になった呼気は最後に咽頭や鼻、口腔(こうくう)、口唇(こうしん)で音色を加えて声として発声されます。これらの音色を加える器官を構音器官と呼びます。
言語音となって出されたことばは話し相手に伝わりますが、同時に、自分の耳に入り脳に伝わり(フィードバック)、脳で声の大きさ、高さなどを調整しながら会話します。
この音は必ずしも自分の耳を通らなくても骨の振動として直接自分の聴覚器官に入ります。録音した自分の声が自分の思っていた声と違うのはそのためです。騒音環境では自分の声のフィードバックを確認しにくくなり、結果として声が大きくなります。高齢者の加齢変化で聞こえにくくなった人の声が大きくなるのはそのためです。
□嚥下器官としてののど
ものを飲み込むときは、まず舌で味わいつつ、歯で咀嚼(そしゃく)します。このとき、唾液腺から唾液を出してこれらの動作を補助します。
ついで、口をしっかり閉じて、舌で食物をくびの下に送り込みます。このとき、同時に、①軟口蓋(なんこうがい:口蓋垂〈こうがいすい〉の周辺)が上に上がり(挙上)、鼻に流れるのを防ぎます。②さらに、咽頭が上咽頭―中咽頭の順で収縮して下のほうへ送り込みます。③のどぼとけを中心とした喉頭が上にもち上がり、舌の根元と喉頭のてっぺんにある喉頭蓋というふたをはさみ込んで、喉頭の内腔に食べ物や水が入らないように気管にふたをします。
これら一連の動作は瞬時におこなわれます。健康であれば寝ていても、ものが飲み込めるのはそういう理由からです。
逆にこれらの機能が一つでも障害を受けた場合、嚥下機能も障害されます。炎症や異物(ものがひっかかったとき)、腫瘍、脳血管障害による神経まひで、急激に嚥下機能の障害が起こる場合があります。
舌の根元やのどの奥に触れると「ゲェー」となります。これを咽頭反射といい、食べ物を飲み込むときに気管に入らないようにする、必要な反射です。神経・中枢の病気でこの反射が強くなったり、弱くなったりします。寝たきりとなった高齢者などで活動性が下がると、反射そのものが弱くなり、誤嚥(ごえん:水分や食べ物が気管に入ってしまうこと)をしても、むせたり、せき込んだりしなくなり、誤嚥性肺炎になることもあります。
(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一)
■のどのはたらき
一般に呼吸をするとき人は鼻から息をしますが、激しい運動のあとなどは口からも呼吸します。口の中に入れた水分や食物は、歯でかんで、舌で味を感じて嚥下(えんげ:飲み込み)します。この中心的な役割をするのが喉頭です。つまり空気は気管へ、食べ物は食道へ正確に分別することが、その第一の機能です。
次に大切なのは胸郭(きょうかく)の固定です。たとえば重いものを持ち上げたり、ふんばったりするとき、呼吸をとめて肺の中の空気を逃がさないようにして、からだ全体の筋肉の作用を発揮させるための土台として胸郭の固定をします。このとき喉頭は、肺からの空気が逃げないようにしっかり気管の上で閉じます。
そして、のどのもう一つの機能が発声です。肺からきた空気(呼気)が喉頭にある声帯を振動させることによって、音にして咽頭や口蓋(こうがい)、鼻・鼻腔(びくう)、舌、口唇(こうしん)を変化させて音色を加えることで、ことば(言語音)としてコミュニケーションをとります。
このとき、自分の声は常に自分の耳に入り(フィードバック)、その指令は聴覚器官を通して(脳)中枢に戻ります。この一連のしくみを「ことばの鎖」といいます。
□発声器官としてののど
「声を出そう」という脳からの指令で、まず肺は呼気(こき:口や鼻から吐く息)を生成します。この呼気が発声の動力源です。したがって、呼吸器系の病気があり肺活量が少ない人では、長い発声はできず、会話中に息つぎをしたり、声に力がなくなります。健康な人でも運動のあとは同じような状態になります。
呼気は次に、気管を通りそのてっぺんの喉頭にきます。喉頭は気道を守るため複数の軟骨組織とそれを動かす筋肉、表面の粘膜よりなり、その内腔(ないくう)に声帯があります。左右の声帯は、ふだんは呼吸のために開いていますが、声を出すときや胸郭の固定時は脳からの指令でピタッと正中で合わさります。
声を出しているときの声帯を内視鏡で見るとただ閉じているだけに見えますが、このとき声帯は目に見えない速度で左右対称に振動しています。
声帯はやわらかく弾性にとんだ粘膜と結合組織、筋肉から構成されていて、目に見えない粘膜の波状の動き(粘膜波動)をしています。
左右の声帯は粘膜のやわらかいところでぶつかるため、空気が声帯を押し上げすきまをつくり、空気を出しますが、次の瞬間ベルヌーイ効果(たとえば、白線の外側で通過電車を待っていると電車に引き込まれること)により左右の声帯粘膜が正中にひき寄せられてぶつかります。さらに次の瞬間、左右の声帯が肺からの空気でもち上げられて呼気が排出されます。
この声帯の開閉が1秒間に何百回も起こり、音(喉頭原音)が生成されます。この音はブーとかピーという振動の音で、音色がまだ加わっていません。男性では1秒間に100~150回、女性では同様に200~300回振動します。このため、一般に女性は男性より高い声になります。ギターの弦の細いほうが高い音が出るのと同様に、その差は男性のほうが太い声帯だからと考えられます。
さらに高い声を出すときは声帯の長さを長くします。ゴムを持ってはじいたときに、そのゴムを伸ばすとだんだん高い音が出ることと同じです。
強風のとき古くなった窓のすきまからピーッと音が出ますが、窓を大きくあければ風は入るけれども音は消えます。これと同じで、声帯がしっかり閉じない状態(声門閉鎖不全)では声帯振動が起こりにくく、息の漏れた、ささやくような声になります(気息性嗄声〈させい〉)。
また、声帯の炎症や病変などで左右の声帯全体の振動が起こりにくいと、声帯振動が不規則になりガラガラ声(粗造〈そぞう〉性嗄声)になります。片方の声帯にがんやポリープができたときは左右の重さも変わり、声帯がしっかり閉じなくなるため両者のまざった嗄声になります。
つまり、嗄声(声がれ)は声帯の振動の異常です。
声帯の振動により音になった呼気は最後に咽頭や鼻、口腔(こうくう)、口唇(こうしん)で音色を加えて声として発声されます。これらの音色を加える器官を構音器官と呼びます。
言語音となって出されたことばは話し相手に伝わりますが、同時に、自分の耳に入り脳に伝わり(フィードバック)、脳で声の大きさ、高さなどを調整しながら会話します。
この音は必ずしも自分の耳を通らなくても骨の振動として直接自分の聴覚器官に入ります。録音した自分の声が自分の思っていた声と違うのはそのためです。騒音環境では自分の声のフィードバックを確認しにくくなり、結果として声が大きくなります。高齢者の加齢変化で聞こえにくくなった人の声が大きくなるのはそのためです。
□嚥下器官としてののど
ものを飲み込むときは、まず舌で味わいつつ、歯で咀嚼(そしゃく)します。このとき、唾液腺から唾液を出してこれらの動作を補助します。
ついで、口をしっかり閉じて、舌で食物をくびの下に送り込みます。このとき、同時に、①軟口蓋(なんこうがい:口蓋垂〈こうがいすい〉の周辺)が上に上がり(挙上)、鼻に流れるのを防ぎます。②さらに、咽頭が上咽頭―中咽頭の順で収縮して下のほうへ送り込みます。③のどぼとけを中心とした喉頭が上にもち上がり、舌の根元と喉頭のてっぺんにある喉頭蓋というふたをはさみ込んで、喉頭の内腔に食べ物や水が入らないように気管にふたをします。
これら一連の動作は瞬時におこなわれます。健康であれば寝ていても、ものが飲み込めるのはそういう理由からです。
逆にこれらの機能が一つでも障害を受けた場合、嚥下機能も障害されます。炎症や異物(ものがひっかかったとき)、腫瘍、脳血管障害による神経まひで、急激に嚥下機能の障害が起こる場合があります。
舌の根元やのどの奥に触れると「ゲェー」となります。これを咽頭反射といい、食べ物を飲み込むときに気管に入らないようにする、必要な反射です。神経・中枢の病気でこの反射が強くなったり、弱くなったりします。寝たきりとなった高齢者などで活動性が下がると、反射そのものが弱くなり、誤嚥(ごえん:水分や食べ物が気管に入ってしまうこと)をしても、むせたり、せき込んだりしなくなり、誤嚥性肺炎になることもあります。
(執筆・監修:独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター 人工臓器・機器開発研究部長 角田 晃一)