裏表も、前後ろもないTシャツやズボン、靴下が好評だ。「障害者の弱点は社会の伸び代」。このひと言がきっかけになり、障害者も参画した製品開発がスタート。できあがった製品には、「誰でも幸せな世の中に」との願いが込められている。
 開発したのは、衣料品・生活雑貨の通販会社フェリシモ(神戸市)。「障害がある方の弱点があるからこそ、社会がどんどん改善されていく」。2021年4月、視覚障害の子を持つコピーライター、沢田智洋さんが社内講演で語った「弱さは社会の伸び代」とのひと言が、同社開発陣の背中を押し、プロジェクトが立ち上がった。
 まず社員から日常のさまざまな「苦手なこと」を調査。筋力が次第に衰える筋ジストロフィーの女性患者や全盲の夫婦らにも商品開発へのアドバイスをもらい、約1年半かけて商品化にこぎ着けた。
 Tシャツは通常、裏地に縫い代ができるが、一方の布地に巻き込むことで合わせ目を目立たなくする工夫を施し、ポケットは前と後ろに四つ配した。靴下も裏と表で見栄えが全く変わらないデザインにした。完成した商品に、筋ジストロフィーの女性は「脱ぐ時に裏返しになるのを気にしなくていい」と喜び、全盲の夫婦も「こんなに楽とは思わなかった」と話したという。
 沢田さんは、年齢や運動能力、障害を問わず楽しめるスポーツを考案する「世界ゆるスポーツ協会」代表理事として、自治体や企業に助言している。沢田さんは「弱者救済」との考えを排除することが肝心だと説く。「弱さを持っている人は貴重な存在で、発明の種。社会とのミスマッチが解消されれば、弱さでもなくなる」と言う。
 Tシャツとズボンの開発担当の下久保英さんも「誰もが幸せに暮らすことができる世の中を考えるきっかけになってくれればうれしい」と語った。 (C)時事通信社