性腺機能低下症の中高年男性に対するテストステロン補充療法の心血管への安全性は確立されていない。米・Cleveland ClinicのA. Michael Lincoff氏らは、第Ⅳ相多施設共同二重盲検プラセボ対照非劣性ランダム化比較試験TRAVERSEでこれを検討。心血管疾患既往または高リスクの性腺機能低下症男性において、テストステロン補充療法は主要心血管イベントの発生率に関してプラセボに対し非劣性であることが示されたとN Engl J Med2023年6月16日オンライン版)に報告した。

5,200例超をランダム化し、心血管死・非致死的心筋梗塞/脳卒中を評価

 米食品医薬品局(FDA)は2015年、製薬企業に対し、テストステロン補充療法の心血管への安全性に関する臨床試験の実施を要請した。TRAVERSEは、その要請に従い実施された第Ⅳ相試験である。

 対象は、米国316施設で登録した45~80歳で心血管疾患の既往または高リスクの性腺機能低下症(有症状かつ空腹時テストステロン濃度300ng/dL未満が2回)の男性患者5,246例。1.62%の経皮テストステロンゲルを連日投与するテストステロン群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付けた。テストステロンの濃度は350~750ng/dLを維持するよう調整した。

 心血管の安全性に関する主要評価項目は、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中のいずれかの初回発生とし、副次評価項目はこれら3項目+冠動脈血行再建術のいずれかの初回発生とした。主要評価項目、副次評価項目ともにtime-to-event解析により評価した。

 非劣性の定義は、試験薬を1回以上投与された患者におけるハザード比(HR)の95%CI上限値が1.5未満であることとした。

主要評価項目のHRは0.96、CI上限1.17で非劣性

 解析対象は5,204例(平均年齢63.3±7.9歳、テストステロン群2,601例、プラセボ群2,603例)。平均治療期間、平均追跡期間は、テストステロン群がそれぞれ21.8±14.2カ月、33.1±12.0カ月、プラセボ群が21.6±14.0カ月、32.9±12.1カ月だった。

 安全性評価対象5,198例における主要評価項目の発生率は、プラセボ群が7.3%(190例)、テストステロン群が7.0%(182例)と、プラセボ群に対する非劣性が示された(HR 0.96、95%CI 0.78〜1.17、非劣性のP<0.001)。

 副次評価項目の発生率、主要評価項目の各イベントの発生率についても、両群で同等だった。治療中止の影響を調整した感受性解析でも、結果は同様だった。

 その他のイベントとしては、プラセボ群と比べテストステロン群で心房細動(2.4% vs. 3.5%、P=0.02)、急性腎障害(1.5% vs. 2.3%、P=0.04)、肺塞栓症(0.5% vs. 0.9%)の発生率が高かった。

 以上から、Lincoff氏らは「平均33カ月の長期追跡において、性腺機能低下症を呈する心血管疾患既往または高リスクの男性へのテストステロン補充療法は、主要心血管イベントの発生率に関し、プラセボに対する非劣性が示された」と結論。「高齢男性におけるテストステロン補充のベネフィットとして、これまでに性機能改善、骨密度増加、原因不明の貧血の改善などが示されている。今後、テストステロン補充療法のリスクベネフィットを検討するに当たり、今回得られた知見が考慮されるだろう」と付言している。

※Testosterone Replacement Therapy for Assessment of Long-term Vascular Events and Efficacy Response in Hypogonadal Men

(小路浩史)