シンバイオシス・ソリューションズ研究開発本部の畑山耕太氏らは、お茶の水健康長寿クリニック、あしかりクリニック(いずれも東京都)との共同研究で軽度認知障害(MCI)と腸内細菌叢の関連を検討。MCI患者に特徴的な腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が存在すること、その異常の長期持続により認知機能低下につながる機序を解明したとBiomedicines2023; 11: 1789)に発表した。(関連記事「腸内細菌叢でアトピーなどのリスクを推測」)

男女差を考慮した解析は行われず

 MCIは認知症に進展するリスクがある一方、適切な介入により認知機能の回復が期待できる。MCI患者の認知機能を改善し、認知症への進展を抑制するためには、早期発見と介入、認知機能低下の機序の理解が不可欠である。

 これまでの研究から、MCIと腸内細菌叢の関連が示唆されていたものの、詳細については明らかでない。またMCIは高齢者と男性で多く、日本人の腸内細菌叢には性差があることも知られているが、性を考慮した解析は行われていなかった。

腸内細菌叢のさまざまな異常が長時間持続、MCIへ

 そこで畑山氏らは今回、日本人MCI患者29例(平均年齢74.2歳、男性11例、女性18例)と健康な対照群40例(平均年齢72.6歳、同17例、23例)の便検体の16SrRNA遺伝子配列を次世代シークエンサーを用いて解析。MCIと腸内細菌叢との関連を調査した。検討は全体および男女別に実施した。

 解析の結果、全体ではMCI群に多い腸内細菌として18分類群(図1、男女混合赤色)、少ない腸内細菌として12分類群(同青色)が同定された。男女別に見ると、男性ではそれぞれ16分類群図1(男性赤色)、14分類群図1(同青色)が観察された。女性ではそれぞれ32分類群図1(女性赤色)、19分類群図1(同青色)だった。これらの分類群は、いずれもMCIに関連するdybiosisと考えられ、全体と一致していたのは男性で11分類群、女性で29分類群だった。

図1. 全体および男女別に見たMCIに関連する腸内細菌(分類群、菌属レベル)

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 以上の結果から、全体で示されたMCIに関連する腸内細菌の分類群は女性の影響を強く受けていることが示唆された。また男女別の解析では全体と異なる分類群との関連が観察されたことから、MCIに関連する腸内細菌には男女差があると考えられた。

 さらに、MCI群に特徴的なdysbiosisの作用の検討から、腸内細菌叢の調節異常、腸管バリアの透過性増大、血液脳関門の透過性増大、慢性神経炎症の亢進を引き起こし、これらの異常が長期間持続することによって最終的に認知機能の低下につながる可能性があることが示された。(図2)

図2. MCI 患者におけるdysbiosisとその作用の連関図

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(図1、2ともシンバイオシス・ソリューションズプレスリリースより)

 畑山氏らは、これまでに明らかになった腸内細菌叢の組成データを用いて、MCIの診断(リスクの推定)モデルを男女別に開発した。このモデルの予測精度を受信者動作特性(ROC)曲線分析によって検証した結果、男性の曲線下面積(AUC)は0.75、女性のAUCは0.87で、いずれも高精度にMCI罹患を判別できることが示された。

 今回の研究から、MCIに関連するdysbiosisの全体像が明らかになり、MCIの発症・進行の機序解明、予防・治療法開発の進展が期待される。同氏らは「MCI高リスク例や患者を簡便かつ効率的にスクリーニングすることで、認知症への進展を予防するという新たなアプローチの実現につながる」と展望している。

                                         (服部美咲)