岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)臨床研究・疫学研究部門講師の事崎由佳氏らは、IMMが実施した東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査TMM CommCohort Study の参加者1万314人のデータを用い、東日本大震災・大津波(以下、東日本大震災)による被災経験がその後の①社会的孤立状態の変化および抑うつ症状、②社会的孤立状態と抑うつ症状の関連−に及ぼす影響について検討。その結果、新たに社会的孤立状態が認められた人はそうでない人に比べ、抑うつ症状のリスクが有意に高かったと、BMC Public Health2023年6月23日オンライン版)に報告した。

2回の調査で社会的孤立、抑うつ症状の変化を確認

社会的孤立とは、社会の中で他人との交流が少なく孤立している状態を指す。特に大規模な水害や地震などの自然災害発生後は被災地における住民の生活環境が一変するため、社会的孤立状態となる人が増える傾向にある。

 これまでの研究から、社会的孤立と抑うつ症状との関連が指摘されているが、震災による家屋の被害や家族との死別などがその後の社会的孤立と抑うつ症状との関連に及ぼす影響についてはほとんど明らかでない。

 事崎氏らは今回、東日本大震災による被災経験が①社会的孤立状態の変化および抑うつ症状、②社会的孤立状態と抑うつ症状の関連−に及ぼす影響について検討した。

 対象は、TMM CommCohort Studyの岩手県地域住民コホート調査において、1回目のベースライン調査(2013~15年度)および2回目の調査(詳細二次調査、2017~19年度)の両方に参加し、社会的孤立に関する質問(LSNS-6)と抑うつ状態に関する質問(CES-D)に回答した1万314人。経時的データを用いて解析した。

 ベースライン調査と詳細二次調査における社会的孤立の有無(社会的孤立;LSNS-6 12点未満)の変化に基づき、対象を①非社会的孤立群(6,267人)、②社会的孤立改善群(865人)、③二次調査で社会的孤立状態が認められた新たな社会的孤立群(1,224人)、④継続的な社会的孤立群(1,978人)−に分類し、詳細二次調査におけるCES-Dが16点以上の場合を抑うつ症状ありと定義した。

抑うつ症状の有意差示す

 ベースライン調査と詳細二次調査で抑うつ症状の有病率に差はなく(26.5% vs. 25.7%)、2つの調査の間に症状は10.7%が改善、9.9%が悪化、15.8%が高止まりしていた。

 年齢、性、教育歴、婚姻状況、就労状況、家屋の被害、震災による家族との死別などを調整したロジスティック回帰分析の結果、非社会的孤立群と比べ新たな社会的孤立群では、抑うつ症状のリスクが有意に高かった〔19.8% vs. 30.0%、調整オッズ比(aOR)1.89、95%CI 1.61~2.23、P<0.001〕。

 また、継続的な社会的孤立群のうち震災による家屋の被害を経験した人で抑うつ症状のaORが2.17と最も高く(95%CI 1.73~2.72、P<0.001)、家屋に被害がなかった人でも抑うつ症状リスクが有意に高かった(aOR1.73、95%CI1.45~2.30、P<0.001)。

 さらに、震災による家族との死別を経験していない人に限定すると、新たな社会的孤立群および継続的な社会的孤立群で抑うつ症状のリスクが有意に高かった(順にaOR 1.88、95%CI 1.60~2.22、同1.88、1.63~2.16、全てP<0.001)。

市民の長期的な健康状態を把握し、適切な予防を

 今回の研究から、東日本大震災の被災後新たに社会的孤立が認められた人、および社会的孤立が継続している人では、震災による家屋の被害や家族との死別の経験の有無にかかわらず、抑うつ症状のリスクが高いことが明らかとなった。事崎氏らは「東日本大震災などの大規模自然災害をはじめ、生命を脅かす出来事を経験した一般市民における社会的孤立の臨床的重要性が示された。長期的な健康状態を把握し、適切な予防策を講じる必要がある」としている。

(編集部)