東京工業大学リーダーシップ教育院/リベラルアーツ研究教育院教授の永岑光恵氏らは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した約9万組の母児を対象に妊婦健診の受診回数と低出生体重児(出生体重2,500g未満)との関連を検討。受診回数が少ない集団では低出生体重児の割合が多く、受診回数には婚姻および就業の状況に加え、妊娠に対する感情や精神的・身体的健康が関連することをAnn Epidemiol2023; 83: 8-14)に報告した。

ソーシャルサポートが妊婦健診の受診を促す可能性

 日本では全出生児に占める低出生体重児の割合が9.2%と高く〔経済協力開発機構(OECD)加盟国平均6.6%〕、啓発および早急な対応が求められている。低体重にはさまざまな要因が考えられ、沖縄県の市町村パネルデータを用いた研究では、妊婦健診の受診回数が多いと低出生体重児の割合が減少することが示されている(社会保障研究 2019; 3: 546-561)。しかし、全国的に同様の傾向が示されるかは不明だった。

 今回の調査では、国内15地域で実施の出生コホート研究であるエコチル調査に参加した9万1,916組の母児を対象に、妊婦健診の受診回数と低出生体重児との関連を検討。さらに、非受診に関連する因子を検索した。

 検討の結果、低出生体重児の割合は母親の妊婦健診非受診が0回の群(8万2,628組)が7.7%、1回の群(8,457組)が11.7%、2回の群(714組)が16.8%、3回以上の群(117組)が17.1%と、非受診回数が多いほど高かった。低出生体重児出生の調整オッズ比(aOR)は1回群が1.57(95%CI 1.46〜1.69)、2回群が2.40(同1.97〜2.94)、3回以上群が2.38(同1.46〜3.88)と、非受診回数との間に有意な関連が認められた(傾向性のP<0.0001、図1)。

図1. 母親の妊婦健診非受診回数と低出生体重児との関連

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 次に、非受診に関連する因子を検討した結果、未婚(aOR 1.46、95%CI 1.05〜2.03)や離婚・死別(同2.14、1.22〜3.75)、妊娠に対する否定的な感情(同1.56、1.23〜1.97)がある妊婦では2回以上の非受診の割合が多いことが示された。一方、就業(同0.62、0.50〜0.70)、妊娠中〜後期の良好な精神的健康(同0.76、0.67〜0.87)、妊娠中〜後期の良好な身体的健康(同0.75、0.66〜0.84)は妊婦健診の受診に繋がることが示された(図2)。

図2.2回以上の非受診と関連する因子

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(図1、2とも東京工業大学プレスリリースより)

 永岑氏らは研究の限界として、調査が妊婦健診を受けた医療機関や母子手帳の発行時に行われたため選択バイアスが生じている可能性があること、調査に参加した妊婦は健康に対する関心が高く一般的な妊婦と比べて健康である可能性があることなどを提示。その上で、「より健康である可能性が高い妊婦から得られたデータにおいても非受診と低出生体重児との関連が示されたことから、妊婦健診の重要性があらためて浮き彫りになった。また、配偶者の不在や妊娠に対する否定的な感情が非受診と関連していたことから、妊婦に対する十分なソーシャルサポートが妊婦健診の受診を促す可能性が示唆された」と結論している。

(編集部)