症候性頭蓋内出血(sICH)は、脳梗塞血栓溶解療法の重篤な合併症である。海外の脳卒中センターでは、血栓溶解薬としてアルテプラーゼに代えてtenecteplase 0.25mg/kgの採用が増えつつあるが、日本では未承認であり、医師主導臨床試験T-FLAVOR※1への登録が2022年にようやく開始されたばかりである。そうした中、同薬の承認に向けて追い風となる知見が報告された。9,000例超を登録した大規模実臨床研究の結果、tenecteplase群のsICH発生率はアルテプラーゼ群の2分の1ほどだった。詳細は、米・University of Texas at AustinのSteven J. Warach氏らがJAMA Neurol2023年5月30日オンライン版)に報告している。

3カ国・100施設以上の脳卒中センターの連続患者が対象

 tenecteplaseは、遺伝子組み換え技術によりアルテプラーゼを改変し、出血リスクを低減するよう設計した血栓溶解薬で、海外ではST上昇型心筋梗塞の標準治療となっている。しかしsICHのリスクに関し、これまでアルテプラーゼに対する明確な優位性は示されていない。

 そこでWarach氏らは今回、ニュージーランド、オーストラリア、米国の脳卒中センター100施設以上が参加する国際登録CERTAIN※2に2018年7月~21年6月に登録され、急性虚血性脳卒中後に静注血栓溶解療法を受けた成人患者連続9,238例〔年齢中央値71歳、女性48%)を対象に、虚血性脳卒中後のsICHリスクを、tenecteplase 0.25mg/kg投与とアルテプラーゼ0.9mg/kg投与で後ろ向きに比較した。

 主要評価項目は、tenecteplaseとアルテプラーゼのsICHリスクの差とし、sICHは脳実質内血腫、くも膜下出血、脳室内出血に関し、米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアで4点以上の臨床的増悪と定義。年齢、性、NIHSSスコア、血栓除去術を調整したロジスティック回帰分析により評価した。

sICHの調整ORは0.42

 ベースラインの背景をtenecteplase群(1,925例)とアルテプラーゼ群(7,313例)で比較したところ、tenecteplase群では、年齢が有意に高く(中央値73歳 vs. 70歳、P<0.001)、男性が多く(54% vs. 51%、P<0.007)、NIHSSスコアが高く(中央値9点 vs. 7点、P<0.001)、血栓除去術の施行率が高かった(38% vs. 20%、P<0.001)。

 解析の結果、sICHの発生率はアルテプラーゼ群の3.6%に対し、tenecteplase群では1.8%と有意に低かった(P<0.001)。調整後のオッズ比(aOR)は0.42(95%CI 0.30~0.58、P<0.01)だった。

 血栓除去術の有無によるサブグループ解析でも、結果は同様だった。

 院内死亡率、7日以内の全死亡率、90日以内の全死亡率に両群で差はなかったが、90日後のmodified Rankin Scale(mRS)スコアが0~1(転帰良好)となる患者の割合はtenecteplase群で有意に多かった(45% vs. 40%、aOR 1.57、95CI 1.16~2.12、P=0.003)。

 以上を踏まえ、Warach氏らは「今回の大規模研究では、tenecteplase 0.25mg/kgによる急性虚血性脳卒中治療により、アルテプラーゼ治療と比べsICH発生率が半減した。実臨床において、急性期脳梗塞患者の静注血栓溶解療法に用いる血栓溶解薬として、tenecteplaseの安全性を裏付けるエビデンスが示された」と結論している。

※1 Tenecteplase versus alteplase For LArge Vessel Occlusion Recanalization
※2 Comparative Effectiveness of Routine Tenecteplase vs Alteplase in Acute Ischemic Stroke

(小路浩史)