定期的な身体活動は、加齢に伴う認知機能の低下に保護的に作用する可能性があるが、十分な睡眠が取れていない人ではこのベネフィットが減少する可能性が示された。英・University College LondonのMikaela Bloomberg氏らは、同国の50歳以上の認知機能と身体活動量および睡眠時間の関連を10年間にわたり調査した結果をLancet Healthy Longev2023; 4: e345-e353)に報告した。

50歳以上の8,958人を10年間追跡

 身体活動量と睡眠時間は認知機能低下および認知症のリスクに関連する重要な因子である。しかし、身体活動と睡眠がどのような交互作用により認知機能の低下に影響を及ぼすかは明らかでない。そこでBloomberg氏らは、身体活動量と睡眠時間が認知機能に及ぼす影響を10年間にわらり検討した。

 同氏らは、2008年1月1日~19年7月31日に英国の大規模前向き縦断研究English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)で収集されたデータと2年ごとにインタビューで得られたデータを解析した。同研究の参加者は認知機能が正常な50歳以上の成人で、ベースライン時に身体活動量と睡眠時間のデータを得た。インタビューでは、Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Diseaseの直後想起および遅延想起タスクを用いてエピソード記憶を、動物名想起タスク(1分間にできるだけ多くの動物名を想起)を用いて言語流暢性を評価し、スコアを標準化・平均化して複合認知スコアを算出〔標準偏差(SD)で表記〕。線形混合モデルを用いて身体活動量(身体活動の頻度と強度から低身体活動/高身体活動を評価)と睡眠時間(短時間睡眠:6時間未満、最適睡眠時間:6~8時間、長時間睡眠:8時間)がベースライン時、追跡10年後の認知機能に及ぼす影響を評価した。

 対象はベースライン時に年齢が50~95歳の8,958人。追跡期間中央値は10年〔四分位範囲(IQR)2~10年〕だった。

 ベースライン時の平均認知機能スコアは、低身体活動群(5,889人)が-0.11SD(95%CI-0.13~-0.09SD)、高身体活動群(3,069人)が0.22SD(同0.19~0.25SD)、最適睡眠時間群(5,053人)が0.08SD(同0.05~0.10SD)、短時間睡眠群(1,271人)が-0.10SD(同-0.14~-0.06SD)、長時間睡眠群(2,634人)が-0.05SD(同-0.08~-0.02SD)だった。

高身体活動と最適睡眠時間は認知機能保護因子

 年齢、性、教育程度、喫煙状況、飲酒状況、BMI、高血圧糖尿病、がん、肺疾患、心血管疾患、関節炎、高コレステロール血症、うつ症状などで調整後、高身体活動は加齢に伴う認知機能低下に対する保護作用と独立して関連していた。低身体活動群に比べて高身体活動群の認知機能スコアは50歳で0.07SD(95%CI 0.01~0.12SD)、60歳で0.10SD(同0.07~0.13SD)、70歳で0.13SD(同0.10~0.17SD)高かった。

 短時間睡眠群と長時間睡眠群に比べ、最適睡眠時間群は全年齢で加齢に伴う認知機能低下に対する保護作用と独立して関連していた。短時間睡眠群に比べ最適睡眠時間群の認知機能スコアは、50歳で0.08SD(95%CI 0.00~0.16SD)、60歳で0.07SD(同0.02~0.12SD)、70歳で0.06SD(同0.01~ 0.10SD)高かった。長時間睡眠群に比べ最適睡眠時間群は認知機能スコアが高く、その差は50歳で0.03SD(同-0.03~0.09SD)、60歳で0.05SD(同0.02~ 0.09SD)、70歳で0.08SD(同0.04~0.11SD)と加齢に伴い大きくなった。

 年齢、性、教育程度、喫煙状況、飲酒状況、BMI、高血圧糖尿病、がん、肺疾患、心血管疾患、関節炎、高コレステロール血症、うつ症状などで調整後、高身体活動群と低身体活動群の10年間における認知機能低下の差は小さかった。ベースライン時に50歳だった最適睡眠時間群に比べ、短時間睡眠群では10年間における認知機能スコアの低下の差は0.11SD(同0.01~0.21SD)と大きかったが、60歳と70歳では認知機能スコアの低下の差は小さかった。同様に、最適睡眠時間群と長時間睡眠群の10年間における認知機能スコアの低下の差も小さかった。

身体活動と睡眠が複合的に関連

 身体活動と睡眠を含めた解析では、認知機能に対する身体活動と睡眠の複合的関連が示された。50歳時の高身体活動+最適睡眠時間群は、認知機能スコアが低身体活動+短時間睡眠群に比べ0.14SD(95%CI 0.05~0.24SD)、低身体活動+最適時間睡眠群に比べ0.05SD(同0.00~0.11SD)、低身体活動+長時間睡眠群に比べ0.11SD(同0.03~0.19SD)高かった。それに比べて50歳時の高身体活動+最適睡眠時間群と高身体活動+短時間睡眠群、高身体活動+長時間睡眠群の認知機能スコアの差は小さく、60歳、70歳時でも同様だった。

 認知機能低下についても、身体機能量と睡眠時間によって差が認められた。

 高身体活動+長時間睡眠群は高身体活動+最適睡眠時間群と比べ50歳時、60歳時、70歳時の10年間における認知機能低下が少なかった〔それぞれ-0.06SD(95%CI -0.15~0.03SD)、-0.04SD(同-0.11~0.02SD)、-0.02SD(同-0.10~0.05SD)〕。

 ベースライン時の認知機能スコアに高身体活動+短時間睡眠群と高身体活動+最適睡眠時間群で差がなかったが、ベースライン時に50歳の集団における10年間の認知機能低下速度は高身体活動+最適睡眠時間群と比べ高身体活動+短時間睡眠群で速かった〔0.14SD(95%CI 0.01~0.26SD)〕。その結果、10年後における高身体活動+短時間睡眠群の認知機能スコアは低身体活動群と同等になった〔10年後の高身体活動+最適時間睡眠群と低身体活動+短時間睡眠群の認知機能スコアの差0.20SD(95%CI 0.08~0.33SD)、高身体活動+最適時間睡眠群と低身体活動+短時間睡眠群の認知機能スコアの差0.22SD(同0.11 ~0.34SD)〕。ベースライン時に60歳の集団でも同様の結果だったが、70歳の集団では短時間睡眠群の10年間の認知機能低下速度の加速が見られず同様の結果にならなかった。

 以上を踏まえ、Bloomberg氏は「強度かつ頻度の高い身体活動による認知機能の保護作用は、短時間睡眠による認知機能低下を改善するには不十分だった。身体活動による長期間の認知機能保護作用を最大限にするには、睡眠習慣を見直す必要がある」と指摘している。

(大江 円)